株式の個別銘柄をシステムトレードの対象とする方法
- 銘柄を固定するのではなく、プロファイルを固定し、スクリーニングのプロセスを入れる。
- ユニバース内のレラティブな情報に基づいて、相対的なリターンを追及するロジックを用いる。
まず、①だが、これはどういうことかと言うと、Aという銘柄のヒストリカルなデータに基づいてトレードシステムを開発し、Aをトレードするのではなく、例えば「TopixSmallをユニバースとして、PBRが1倍以下で、かつ20日移動平均線を上回っているもの」というプロファイルを持つ銘柄群のデータに基づいてトレードシステムを開発し、毎回スクリーニングをかけながら「TopixSmallをユニバースとして、PBRが1倍以下で、かつ20日移動平均線を上回っているもの」というプロファイルを持つ銘柄群をトレードするということなのである。
この方法であれば個別銘柄が時間と共に変化するという問題から解放され、常に一定のプロファイルを持った銘柄をトレードできることになる。
②をおおざっぱに言うと例えば「Topix100をユニバースとして、3ヶ月ごとに、PBRが下位の5銘柄を買い、見合いに日経平均先物を売る」というようなアプローチである。 注意すべきは、ここで用いられているのはPBRの絶対的な水準ではなく、ユニバース内の相対的な順位であると言うことだ。 これによって、トレードにあたって依拠しているものが、特定のファクターの効果に移行し、銘柄固有の事情に依拠した安定のなさを解消することができるのである。
以上、ここに述べた2つのアプローチによって、私は長い間株式の個別銘柄をシステマティックな方法でトレードしてきた。 時間の試練にたえた手法であると確信している。
トレード関連の書籍に既にかいてある売買手法で継続的に利益を上げている人たちがいる一方で、ほとんどの人がそれに気づかないのはどうしてなのだろう?
それは全数検索をしないからだ。 具体的には、「プログラミングのスキル」と「確率統計の知識」が足りないからだ。 書籍に書いてあることを、その文字通りの意味に限定して理解するのではなく、そこに書いてあるアイデアをあらゆるアセットクラス、銘柄に適応して検証することで、自分が全く気づかなかったものを発見することができる。 もちろんほとんどの検証作業は徒労に終わり、99.9%の結果はただのゴミにしか過ぎないだろうが、それでもごくわずかに役に立つものが残ればそれで意味がある。 なぜなら、これはアイデアの「フリーライド」だからだ。
現在では既にたくさんのアイデアが公開されており(そのほとんどは役に立たないが)、我々はそれに「ただ乗り」することができる。 全数検索さえできれば。
だから、もしファクターモデルを使って全数検索を行なうのならば、入力するファクターを恣意的に選んではいけない。
一切の常識を捨てなければいけない。 ありとあらゆる説明変数、目的変数を試すのだ。
こんなバカなものが役に立つわけがないと思える場合でも、とりあえず検証プログラムをまわしてみればよい。 考察は結果が出てからだ。 私のような凡人にとって、自分が見えていないものを見、感じることができないものを感じるためには、こういった「とりあえず全部試してみる」アプローチしかない。 面倒でもそれをやらなければ自分自身の狭い枠を超えられない。 その努力はいつか報われると思う。
「システムトレード」とはパターン認識のことだと思われているのではないか???
パターン認識によるシステムトレードも当然システムトレードであるけれども、それは単なる1分野にすぎない。
ファクターモデルを動かすのは自分の知らないこと、想像だにできない領域から有益な知見を得るためである。 多くの相場書籍を読み、そのロジックをコードや関数に置き換えて検証することだけでも十分やってみる価値はあると思う。 だが、おそらくほとんどの場合、自分もしくは一般的なパラダイムの範囲内で推察される結論しかでてこない。
だが、ファクターモデルを用いて様々な変数を用いて総なめ的に検証を行なっていると、偶然に何か新しいことを発見することがある。それも自分の知識、経験、常識からでは考え付かない何かをだ。
私が以前、発見(?)したあるロジックもそうであった。 私はその事実に驚愕して早速実際の運用に使おうとした。 そしてそのときの当時の上役の反応は忘れられない。 彼は私を非常識極まりないとして非難、罵倒したのだ。 なぜならそれが一般常識にあまりにも反していたからだ。 だが私はその抵抗を意に介さず運用に新しいロジックを使った。そして驚くことに(かつ当然なことに)、結果は順調であった。そしてそのロジックはその後何年もの間、収益を出し続けてくれたのだ。
当然そのロジックは自分の(そしてほとんどの人にとって)既存の概念の範囲内にはないことだから、演繹(えんえき)的に考察して同じ結論を導き出すことはできなかったろう。 自分で自分の枠を超えることは簡単なことではない。 人は自分の持つ思想の及ぶパラダイムの範囲でしか物事を考えることはできない。 しかし、システムトレードの検証においては、ファクターモデルを動かすことによってこれが可能になる。 しかもこの非常に低コストで高速に実行できるアプローチは、ほとんどの人にとってすぐ手の届くところにある。 ただ、何台かのPCとExcel(VBA)で検証プログラムを書くだけでいいのだ。 それは知らなければちょっと面倒なことのようにも思えるが、やってみる価値はあると私は思う。 一般に言うパターン認識だけがシステムトレードではないのである。
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