■目次

短信                                                                      5
 楽しい経済的自殺の方法                                                 13
株式相場における需要と供給の法則の働き                                   14
オーバーン社株の激しい値動きを予測する                                   17
トレードの方法                                                           20
 Ⅰ.過去のやり方                                                       20
 Ⅱ.最新の科学的方法                                                   21
編集だより――なぜ本誌はアドバイスを提供しないか                         26
短信                                                                     28
岐路に立つ大衆                                                           35
ノウハウ                                                                 49
買った理由                                                               50
チャートとダウ理論                                                       52
融通のきかない方法と柔軟な方法                                           56
インサイド情報について                                                   59
ウォール街の誤信                                                         61
 その1 「金庫にしまった株のことが忘れられる」                         61
ウォールストリート動物園                                                 62
編集だより――本誌の出版の目的                                           63
ダウ理論のさらなる発展                                                   65
   トレンド                                                           68
   転換点                                                             69
   値幅の判断                                                         70
   最良の銘柄選択                                                     70
   さらなる発展                                                       71
ティッカーテープで相場の転換を予測する                                   73
テクニシャンはどのように株式相場を判断するか                             76
なぜ統計データを研究するのか                                             81
短信                                                                     83
ディクソン・G・ワットが語る芸術としての投機                             88
   1.独立独歩                                                       88
   2.判断力                                                         89
   3.勇気                                                           89
   4.慎重さ                                                         89
   5.柔軟性                                                         90
   絶対的な規則                                                       90
   条件的な規則                                                       91
編集だより――過去の予測                                                 97
探りと反応によって相場を判断する                                         99
ウォール街の誤信                                                        107
 その2 成功するには十分な資金が必要                                  107
ダウ理論を打破する                                                      111
新聞の金融欄の本当の価値                                                118
さらにインサイド情報について                                            123
ジェイ・グールドの哲学                                                  127
編集だより――どうすればこの相場が持ち直すか                            131
4年半の間になされたアドバイス機関の予測の成績                          134
自分の投資プールを運営する                                              145
年金――100%の安全性                                                   149
転換点を見抜く                                                          153
 さらにインサイド情報                                                  155
   あるトレーダーからの投書                                          155
ダニエル・ドルーの教え                                                  157
ポイント・アンド・フィギュア・チャート                                  161
ニュースを過大評価してはいけない                                        164
 流れとしての株価                                                      165
短信                                                                    167
なぜストップ注文が執行されてしまうのか                                  170
追証の請求に対して現金を差し入れてはいけない――損失を防ぐ三重の防衛線  173
スイングトレードで長期保有よりも多くの利益を上げる                      175
ブローカーに頼ってはいけない                                            179
ティッカーテープに基づいてトレードをする                                181
テクニシャンがファンダメンタリストに論争を挑む                          183
最良の銘柄――資金と目的と性格に合わせて選ぶ                            188
銀行家はチャートに対して弱気                                            190
中立ポジションの大切さ                                                  194
相場の達人が語る                                                        197
有名な相場師たちの哲学                                                  199
 読者からの投書                                                        201
編集だより――なぜファンダメンタルズは役に立たないのか                  208
挨拶状                                                                  211

訳者あとがき                                                            212

■訳者あとがき

 株式投資の本道は優良銘柄の長期保有にあるという考え方は今も根強い。しかし、値下がりが続く「失われた10年」の経験はこれに反省の機運をもたらし、日本経済新聞にも売却の時期について解説する記事が載るような時代となった。  この本の背景となっているのは大恐慌直後のアメリカ株式市場であり、すべての価値の劇的な下落を経験したばかりだった。ワイコフが繰り返し主張しているような、正しいトレード法を身につける必要性をこれほど切実に感じた時代はほかにはなかっただろう。しかし、その必要性はどんな時代のどんな場所にも当てはまる。ワイコフ流にいえば、トレード法を知らなければ相場は「ダイナマイト」だからだ。  ワイコフにはウォール街における長年の経験があった。また、今でも有力なダウ・ジョーンズの株価変動理論や、伝説的なジェシー・リバモアを始めとする一流相場師の売買法にもよく通じていた。こうした知見をもとに、ワイコフは独自のトレードシステムを打ち立てていた。このシステムを広く投資家に知ってもらい、目の前で繰り広げられている悲劇を再び起きないようにすることがワイコフの願いだった。そのために、彼は自らマガジン・オブ・ウォールストリート誌を創刊し、その編集者として、正しいトレード法の普及に努めた。この雑誌に掲載された記事をえりすぐってできたのが本書である。  本書で述べられているトレード法は、精密なチャートや難解な数式を駆使した専門的なものではなく、むしろいくつかの基本原則のかたちで示されている。その基本原則を分かりやすく具体的に説明することによって、一般投資家にすぐに使ってもらいたいと考えたのである。しかし、だからといってその価値が低いということにはけっしてならない。  本書で述べられた基本原則は、トレンドの読み取り、相場への参入と撤退の見極め、リスクの限定など、いずれも後代のテクニカル分析書に取り入れられ、詳しく説明されているものばかりである。しかし、高度なテクニックを身につけることも大事だが、その基にある原則に立ち返って、それを確認し、使いこなせるようになることもそれに劣らず重要である。そのためには、株式トレード法の古典とよばれる本書が絶好の手引となるであろう。  本書が読者の方々の投資とトレードにお役に立つことがあれば幸いである。

 2004年1月

                      鈴木敏昭

■ウォールストリート動物園

 あなたはフクロウ、ウサギ、それともロバ……
 われわれのおなじみの友人ブルとベアに混じって、ほかにもたくさんの動物をウォール街で見かける。賢そうだが寡黙なフクロウ――これはめったにいない。いつもピョンピョンと相場に出入りするノミ。ひっきりなしにだれかを刺しているヤマアラシ。証券会社の取締役は馬車馬。オーム――秘密情報を繰り返ししゃべる。ものごとの真相を見極めるモグラ。恐怖に立ちすくみ、燃えさかる納屋から頑として出ない馬。かわいそうな魚たちをエサにするサメ。すぐにおびえるウサギ。いつまでも放さないブルドッグ。簡単に言うことを聞きすぎる山羊。あまりにしょっちゅう毛を刈られる羊。自分の利益に絶対に満足しない豚。弱いものをえじきにする狼。追証の電話がきそうなときに頭を隠すダチョウ。  それに、例のロバとかわいそうな魚もいる。私たちのなかに、このどれにも当てはまらない人がいるだろうか。

■ダニエル・ドルーの教え

 わしはニューヨーク証券取引所の相場師になった。ブロード街に看板を出したんだ。……水を飲ませて20キロ重くなった牛を売って稼ぐ奴がいる。なら、鉄道会社や汽船会社の株を大量に新規発行して、それをもとの株として売ってどこが悪い?

      *   *   *   *   *      

 わしがウォール街でもういい年になっていた頃、ジム・フィスクはほんの赤ん坊で、ジェイ・グールドはまだこの世の光すら目にしてなかった。わしは奴らのウォール街の父親だといってもいいくらいだ。奴らが使う方式や方法はたいていこのわしから学んだものだ。わしは開拓者だった。わしがこのビジネスに足を踏み入れたとき、株価操作をしたり、ウォール街の取引を操縦したりする方法はほとんど知られてなかった。そうした方式の多くは、わしがこの頭で考え出したものさ。あとから来た奴らはわしのアイデアをただ真似するだけだった。グールドとフィスク――奴らは2人そろってわしの弟子さ。一人前になる手助けをしてやったのだ。両方とも青二才だった。それを訓練したのだ。今では相場を操るためにキャンペーンを張ることは簡単にできる。だが、昔、わしがまだ若かった頃は、絶対にそんな簡単なことではなかったのだ。わしは自分でその方法を考え出さねばならなかった。従うべき手本なんぞなかったのだ。

      *   *   *   *   *      

 ウォール街で取引するとき、鉄道会社や大手製造会社の内部に通じているといつだって有利な立場に立てる。月ごとの収益も一般大衆に公表される前から分かる。好ましい出来事もそうでないものも、ずいぶん早くから知らせてもらえる。株主名簿も見ることができるから、流動株の持ち主がすべて分かる。鉄道会社の資産に生じたどんな危険だろうと、収益力にプラスになるどんな新規取引だろうと、外部投資家がその情報を手にするずっと前からもう承知済みのことになっている。だから、取引所に行き、すべて心得たうえで、その株のとうち(投機)ができるのさ。ところが、ほかのとうち家連中はわけも分からずに取引してるってわけだ。インサイダーだってことは、エホバの箱のなかの金と同じくらい役に立つことだ。

 そのうえ、わしにはさらにもうひとつ有利なことがあった。エリー鉄道株のほとんど全部の動きが読めただけじゃなく、もっといいこともできた。わしがこうと決めたらどっちの方向だろうと持っていくこともできたのだ。言ってみれば、馬の手綱を持っていて、好きな所に連れていけるっていう寸法さ。取引所でのわしの作戦で、その株価を上げることが必要だったら、運営している鉄道は順調だと言いふらす――すると、株が値上がりする。そうじゃなくて、弱気の気分になっていて、その株に下がってほしいとき、わしはいっときの間、その鉄道を不調にすることもできる。そうすると、株はわしが望んだところまで下がってくれるのだ。

 わしは、ウォール街で、エリーの株を使って、ときには1カ月以内に10ポイントも株価を動かすやり方も見つけた。そんなふうに突然ピョンピョンはねる株には、大勢のとうち家連中が群がってついてくるものなのさ。  外部のとうち家連中を出し抜けないのなら、内部情報に通じていたって何の役に立つのだ。

      *   *   *   *   *      

 売りの作戦に出ようというなら、まず、その株価を目のくらむほど高く押し上げなくちゃならない。だって、この作戦は、株が高いときに空売りして、(うまくいった場合には)安いところで手放すものなのだ。儲けはこの2つの数字の開き具合による――開きが大きければ、それだけ儲けも大きい。それだけじゃなくて、たいてい、相場が高いと、売り株を揃えるのもそれだけ簡単にできる。人間の心の欠陥か何かなのだろうが、株が高いとき、人の普通の気持ちとしては強気で楽観的になるものさ。株がそんなにも素晴らしく値上がりすると、もっと上がり続けると思い込むので、たいてい空売りの注文にすぐさま応じてくれるのだ。

■ブローカーに頼ってはいけない

 何よりもまず、それはあなたのお金であって、ブローカーのものではない。  成功したらその利益はあなたのものであって、ブローカーのものではない。  人によっては、失敗したときにブローカーに責任を押しつけるために、トレードの前に彼のアドバイスを求める。それなのに、その助けで利益が得られてもブローカーに感謝しようとは露ほども思わない。  60年前、ニューヨーク証券取引所の会員であったE・C・ステドマンは次のように書いている。  「客は自分自身の心を知り、自分自身の意見を持つべきである。でなければ取引をやめるべきだ。相場判断はブローカーにしてもらうという決まりがあるわけではない。もし、ブローカーがいつでもそれができるのなら、客を取る必要などなく、自分のためだけに取引をしたほうがずっと良いはずだ」  自分で事実を集めなさい。自分の結論を作り上げなさい。自分で決めなさい。自分の注文を出しなさい。自分の勘定とリスクでブローカーに買いや売りの指示を出しなさい。ブローカーの意見を求めてはいけない。彼は注文執行と融資だけを行って、あなた自身の賭けに対して口を出させてはいけない。  毎日大勢の人が、どの株が良いか、上げるのか下げるのか、いつ買っていつ売るのか、その判断をブローカーから聞きたがっている。ブローカーが正しい答えをどんなときもさっと出すというようなことがどうすればできるというのか。そんな技はだれにもできないのだ。  相場の流儀に従って自分自身の足で立つことを学びなさい。そうすれば、すべきことと、すべきでないことが区別できるようになるだろう。そして、最後は、自分自身を責めるか、あるいは、よくやったと自分をほめてやればよいのだ。  ものごとはそうあるべきだ。

■相場の達人が語る

 相場を取り逃がすという言い方をよく聞くが、これにはつい笑ってしまう。この表現はつまり、汽車――相場の動き――に乗りそこねたということを意味しているのだ。  実際には、頭を働かせているかぎり、けっして相場を取り逃がすことはない。たえず相場を正しく判断し、その判断に基づいて素早く行動すればいいのだ。  私は相場が上に行くか下に行くか気にすることはない。主要波動のまんなかあたりの値幅が取れればそれで十分だ。天井や底をぴったり当てようとは思っていない。私に言わせれば最悪なのは相場がじっと動かないことだ。利ざやが稼げないからね。

      *   *   *   *   *

 株式相場の短期的、中期的な動きを予測しようとしても成功するはずがない、と言う者がいたとすれば、彼は単に自分にはそれができないと告白しているにすぎない。 覚えているだろうが、以前、客車に馬をつながなければ動かないとだれもが言っていた時期があった。  生涯をかけて株式相場の科学を研究した少数の人たちが見つけ出したのは、正確な予測とトレードによって利益を上げることは、なし得るし、今までなされてきたし、今もなされているし、これからもなされるだろう、ということだ。

       ――――――――――――――

 「ある男に相場の内部情報を教えて、けっしてほかの連中にしゃべってはいけないと言った場合、彼は少なくとも3、4人にこの秘密をもらすであろう。そして、それは森のなかの火事のような勢いで広がっていく」――ダニエル・ドルー

■有名な相場師たちの哲学

 「株で儲けたいなら損失を処分しなさい」――E・H・ハリーマン

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 「5回のうち3回正しく、間違えたときには素早く手仕舞いできるのなら、儲けられる」――ジェームス・R・キーン

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 「良いチャンスに出会ったらすぐにそれをつかみなさい。遅れることなく、可能なうちにつかむのだ。救貧院は、よくよく考えようとして、あるいは友人、銀行、弁護士に相談しようとして決断をためらった人であふれている。余裕資金の使い方について自分の頭で考え、自分のために運用しなさい」――ジョン・D・ロックフェラー

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 「ジム・パットンは自分が間違ったと気づくたびに、おびえたウサギのように相場から脱出することができた。それが彼の成功した理由のひとつだ。片意地を張っても相場は思うようにならないと分かっていたわけだ。……金儲けのコツは、できるだけ早く損を確定する一方で、利益の確定はゆっくり行う――というよりも、利益が積み上がるにまかせることだ。このことに思い至らなかったとすれば、私は相当頭が鈍いと言われてもしかたない」――アーサー・W・カットン(サタデー・イブニング・ポスト紙より)

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 「狙った株や商品の値段を一直線に押し上げようとするのは、創意力ある買い方相場師のすることではない。例えば、株価を80ドルまでつり上げることを狙って、78ドルまできたとする。そのとき、たくさんのちょうちんが後ろについてきていることに気づくことがある。株価つり上げの通常の作戦としては、たいてい、そのちょうちんを振り落とすために株を一時的に下落させる。というのも、彼らはおかしなときに売りに出て、厄介な状況を生み出す可能性があるからだ。ウォール街での追随者は、敵方以上にたくさんのトラブルを引き起こすことがよくあるのだ」――ジェイ・グールド


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