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2015年12月発売/A5判 382頁
ISBN978-4-7759-7200-7 C2033
定価 本体7,800円+税
著 者 ハリー・ゲオルガコプロス
監修者 長尾慎太郎
訳 者 山下恵美子
トレーダーズショップから送料無料でお届け
本書では、クオンツ、講演家、高頻度トレーダーとしての著者の経験に基づき、プロのクオンツやトレーダーたちが日々遭遇するさまざまな問題を明らかにし、それを解決するための分かりやすいRコードを紹介する。
プログラミング、数学、金融概念を使って簡単なトレード戦略の構築と分析を行うことに興味のある学生、研究者、実践家たちにとって、本書は素晴らしい入門書になるはずだ。分かりやすく包括的に書かれた本書は、データの調査や戦略の開発を行うにあたり、人気のR言語を使えるようにすることを主眼としたものだ。
本書では、基本的なトレードの概念と、クオンツやトレーダーたちが拠って立つ数学、データ分析、金融、プログラミングを分かりやすく説明していく。各ケーススタディーは、読者の記憶に残りやすいように、細かくモジュールに分けて説明する。各章は数学、金融、プログラミングをバランスよく含み、統計、データ分析、時系列の操作、バックテスト、R言語によるプログラミングといった多岐にわたる題材をカバーしている。
本書は、非常に読みやすいながらも、各題材を徹底的に掘り下げているので、ガイドブックとしても便利に使える。本書を読み終えるころには、クオンツトレード分野の学術研究者や実践家たちが使っているR言語と関連するパッケージに関する知識が身についていることだろう。
「これはクオンツトレーダーを目指す人たちにとっての素晴らしい教科書だ。金融数学の概念と計算方法が同時に提示されているのがよい。また本書に提示されたRコードは読者にとってデータをベースとするトレード戦略を開発するうえで大いに役立つはずだ。やさしく、かつ実践家としての視点で書かれているため、共鳴する読者も多いことだろう」――スティーブン・トッド(ロヨラ大学シカゴ・クインランビジネススクールの教員研究活動の副学部長、元金融学部委員長、金融学部准教授)
「複雑な題材をこれほど分かりやすく解きほぐすとは驚くばかりだ。私は本書を参考書として使っている。ベルベデーレではすでに本書の一部を社員教育の一環として教えている」――トーマス・ハッチンソン(ベルベデーレ・トレーディングLLCの業務執行社員)
監修者まえがき 謝辞
第1章 概説 (第1章をまとめて読む)
第2章 トレードのためのツール
第3章 データの取り扱い
第4章 確率と統計――基礎編
第5章 確率と統計――中級編 |
第6章 スプレッド、ベータ、リスク 株式スプレッドの定義 最小二乗法と総最小二乗法 スプレッドの構築 シグナルの生成とその検証 スプレッドのトレード リスクを考える 損益曲線について 戦略の特徴 まとめ
第7章 Quantstratによるバックテスト
第8章 高頻度データ
第9章 オプション
第10章 最適化
第11章 スピード、検証、レポートの作成 参考資料 |
だが、Rは極めて便利なツールである一方で両刃の剣でもあり、あくまで正しい使い方を知ることでのみ本来の威力を発揮する。現在、巷に見られるほとんどのトレードシステムは、実証主義由来のシステム科学のパラダイムで動いている。理論的には対象とする系をハードシステムとして理解できればシステマティックな扱いが簡単になるが、マーケットのように複雑でかつ多元的な世界をすべて構造化し未来を予測することはそもそも不可能である。その意味では、既存の多くのトレードシステムはかなりの無理をしていることになる。そうした矛盾を避けるために、一般的には次善の策として確率モデルが導入されることになる。これはRに代表される統計ツールの得意な分野である。そしてそれと同時に、マーケットにおいて確率モデルがシステム科学の観点からどの階層まで有効であるのか、その境界を見極めることが非常に重要になる。逆に、もしそれができなければ、統計解析を精緻に行えば行うほど、実際の結果は悲惨なものになり、結果として使い手はひどく傷つくことになるだろう。
つまり、優れた道具であるRを生かすも生かさないのも、すべてはシステム一般に関するメタな知識や視点による判断の巧拙次第なのである。ここで、初心者の方のために、この分野の学習に適した書籍を以下に2冊挙げておく(システム科学が体系的に学べるのなら、これら以外の本でも構わない)。本書と併せてお読みいただければ参考になると思う。
①ピーター・チェックランド著『新しいシステムアプローチ――システム思考とシステム実践』(オーム社。1985年)
②ハーバート・サイモン著『システムの科学』(パーソナルメディア。1987年)
最後に、翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。山下恵美子氏は正確かつ迅速な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。
2015年11月
長尾慎太郎
本書は入門書なので、プログラミングの経験や高度な数学の知識は必要ではない。とはいえ、数学やプログラミングの基礎的な知識があればスムーズに読み進めることができる章もある。数学関係では、微積分の基礎、線形代数、確率統計(基礎的な数学のスキルをブラッシュアップするための学習サイトで最もお勧めなのはカーン・アカデミー[Khan Academy]だ。特にお勧めなのが次のコースだ。線形代数、微分、積分、確率統計)を見直しておくことをお勧めする。
また、プログラミング関係では、VBA、パイソン(Python)、SQLの知識があればなおよい(パイソンはさまざまなデータ処理と分析が得意な人気のスクリプト言語だ。学術界からも業界からも大きな支持を得ている。基本情報については以下のサイトを参照してほしい。https://wiki.python.org/、YouTube。YouTubeのWiseOwlTutorialsはエクセルVBAおよびSQLの入門ビデオシリーズを提供している。エクセルVBAとSQLは金融の世界では幅広く使われているため、学習しておくと役に立つこと請け合いだ。YouTubeのプレイリストはこちらのウェブサイトからアクセス可能だ)。
本書は初心者だけでなく、金融データの分析方法やワークフローを自動化するためにR言語の書き方を学びたい実践家やベテラントレーダーにとっても役立つはずだ。
トレードもプログラミングもそれ自体大きなテーマなので、本書で完全な説明をしようとは思っていない。本書を読んでもプロのプログラマーになれるわけではなく、私のアドバイスに従っても市場で巨額の富を手に入れることはできないだろう。本書はトレード戦略や関連するクオンツ関連のテーマを分析、実装、提示する手助けになるツールとアイデアを提供するものだ。図1.1はこのあとの章で扱うテーマを示したものだ。
プログラミング本の大部分は参考書として使われることが多い。興味のある項目を見つけたら、そこに書いてあるページを開く。しかし、本書を最大限に活用するためには、この方法には従わないでもらいたい。最初からすべての章を書かれた順序どおりに読み進めていってもらいたい。これにはちゃんとした理由がある。読者に数量ファイナンスの考え方に触れてもらいたいのと、数量ファイナンスを考えていくうえで自然に発生する現実世界における問題に立ち向かう自信をつけてもらいたいのだ。本書を最初から章に沿って読み進めることで、こうしたことを達成しながら、Rを使って望むタスクを自動化できるようになるはずだ。
自分がどこに向かおうとしているのか、その過程ではどんな障害が待ち受けているのかを知るうえで、頭のなかに地図を描いておくことは賢明だ。私たちの最終目標は、クオンツやトレーダーたちがよく出くわす問題を解決できるように必要なプログラミングスキルを身につけることだ。そしてもう1つの目標は、金融データを操作して、数学のテクニックを使ってトレード戦略を評価することである。
目標をより具体化するために、目標をミッションステートメントとして書いてみよう。出来上がったミッションステートメントは以下のとおりである。
流動性のある商品のポートフォリオを市場でトレードする自動化されたトレード戦略を構築する。その戦略は効率的で、堅牢で、拡張性のあるものでなければならない。また、その戦略は利益をもたらし、リスクは低くなければならない。
このミッションステートメントを読んだあと、当然ながら次のような疑問が生じるはずだ。
今日では物理的市場の多くは仮想的市場へと姿を変えている。アマゾン、イーベイ、アリババは仮想的市場の良い例だ。これらは買い手と売り手がコンピューターだけを介して取引する広大なオンライン市場である。この数年にわたって金融市場でも同じようなトレンドが発生している。フロアピットで取引されていた商品先物、株式、オプション取引は電子市場へと移行している。表1.1はCME(シカゴ・マーカーンタイル取引所)取引所の電子取引とフロア取引の出来高の比率を示したものだ。GlobexはCMEの電子取引システムのことである。
組織化された市場の主たる目的は、商品やサービスを同意した価格で取引したい参加者を引き合わせることである。成功する市場の二次的な目的は、そうした取引を促進することである。電子金融市場はこの目的にぴったり合致する。
金融取引所や電子取引所は世界中に何百と存在する。表1.2は有名な証券取引所を示したものだ。
表1.3は有名な先物取引所を示したものだ。
こうした取引所では標準化された金融取引が効率的かつ秩序正しく行われる。金融商品は株式、先物、債券、通貨、バニラオプション、エキゾチックオプション、スワップ、スワプションなどなどいろいろある。なかには特に人気のある商品もある[35]。例えば、CMEで取引されているEミニ金融先物とユーロドルは世界で最も流動性が高い。投資家やトレーダーたちは自分たちの市場や金利リスクを日々管理するのにこうした市場を使う。表1.4はCMEの主たる先物契約の日々の平均出来高を示したものだ[36]。
流動性は、一定量の商品を望む価格でどれだけ簡単に売買できるかの目安になるものだ。流動性は大ざっぱに言えば、取引された出来高の代理と考えることができる。投資家やトレーダーは流動性のある商品が好きだ。なぜならこういった商品は価格に悪影響を及ぼすことなく大量に取引することができるからだ。
SECは1934年の証券取引所法によって設立された。SECは米国の金融史で最も騒然とした時期に設立された。http://www.sec.gov/ によれば、SECの目的は投資家を保護し、フェアで秩序正しい効率的市場を維持し、資本形成を促すことである[139]。
一方、オプション市場や先物市場はCFTC[米国商品先物取引委員会]によって管理されている。CFTCは商品先物取引委員会法に基づき1974年に農作物取引監督局の後継として設立された[118]。SECとCFTCは異なる実体だが、互いに協力して任務を遂行している。CFTCについてもっとよく知りたい人はこちらを参照のこと)。これには一長一短ある。短所は、競争とイノベーションを阻害してしまうことだ。長所は、市場参加者が取引の有効性や公平性を確信することができることだ。取引の有効性を信じられるということは非常に重要なことだ。こうして投資家やトレーダーは、電子市場にアクティブに参加する電子トレードシステムの開発によって多くの時間とお金を注ぎ込もうという気になるのである。投資家やトレーダーがある金融商品に対して買い注文や売り注文を出すことで合法的に利用することができる機会を見つけたとき、トレード戦略が生まれる。トレーダーが取引で利益を実現するためには、手仕舞いを行わなければならない。トレード戦略には保有期間というものがある。保有期間は、数マイクロ秒から数年までいろいろだ。トレード戦略にはさまざまなものがある。長期戦略、短期戦略、オポチュニスティック戦略、高頻度戦略、ローレイテンシー(レスポンスが速い)戦略など多岐にわたる。どういった名前が使われようと、トレード戦略は、トレーダーが利益を出すという最終目的のために用いるよく定義されたルールの集合体にすぎない。トレード戦略は、市場における構造効果や、金融商品間の統計学的関係、あるいは極端な情報の流れを利用して利益を生みだすのである。
高頻度マーケットメイキング戦略は、トレーディングアルゴリズムがほかの市場参加者に常に流動性を提供するような戦略を言う。この戦略では、アクティブなトレーダー(トレードの逆サイドを取るトレーダー)がパッシブな(マーケットメイクする)アルゴリズムよりも情報量が多いという内在的リスクがある。こうした情報の非対称性を補うために、マーケットメイクするトレーダーに金銭的補償をする取引所もある。マーケットメイキング戦略がとらえられる利益は、マーケットテイキング戦略がとらえられる利益よりも少ない。利益が少ない分は量で稼ぐ。マーケットメイキング戦略は1トレード当たりわずか1ティックの利益に甘んずることもある。ティックとは、取引所で時々刻々と変化する値動きの最小単位のことを言う。実際にはこうした戦略は結局のところ、価格の逆行によって1ティックの数分の1しかとらえることができない場合も多い。
一方、マーケットテイキング戦略はトレード機会が発生すると指値を入れることなく買い気配値や売り気配値で売買する。こうしたトレード機会は、マーケットデータを分析しているアルゴリズムからの買いシグナルや売りシグナルの結果として発生するか、強気のニュースや弱気のニュースから発生する。こうしたタイプの戦略では、価格よりも執行の即時性が優先される。マーケットテイキング戦略はマーケットメイキング戦略よりも、1トレード当たりより大きなエッジを必要とする。
最良の買い気配値は、パッシブなトレーダーが買いたいと思う最高価格で、最良の売り気配値は、パッシブなトレーダーが売りたいと思う最低価格だ。図1.2の例では、最良の買い気配値は8で、最良の売り気配値は9である。また、最良の買い気配値の数量は125で、最良の売り気配値の数量は100である。さらに、最良の買い気配値には目立った注文が1つ、最良の売り気配値には目立った注文が4つあることも見て取れる。これらの数字が変化すると、マーケットデータイベントが発生したことが分かる。例えば、価格7で1単位の注文の取り消しが発生したり、2番目に最良の売り気配値で新たな注文が発生したりといったことが考えられる。したがって、2番目に最良の買い気配値の新たな数量は199になり、2番目に最良の売り気配値の新たな数量は増えることになる。どの取引所でも多くの商品が売買されていることを考えると、取引所が送受信したり取引所に蓄えられる情報量は巨大な量になることは簡単に察しがつく。この事実と、取引所が各トレーダーにリアルタイムで注文状況の情報を伝えなければならないことを考えると、こうしたデータを処理・保存するインフラがどれくらい複雑かは簡単に想像がつくはずだ。
今日ではテクノロジーの発達によって、トレードの仕掛けや手仕舞いは昔よりもはるかにスピーディーに行われるようになった。インタラクティブブローカーズ、Eトレード、アメリトレードなどによって提供される自動化トレーディングプラットフォームはトレードの仕掛けを素早く行うことを可能にし、しかもコストは安い。買い手と売り手のマッチングは、取引所自らが運用する集中マッチングエンジンでほぼ瞬時に行われる。マッチングエンジンはすべてのオーダーフローをトラッキングし、正しい数量をタイムリーに買い手と売り手に割り当てるコンピューターシステムだ。マッチングエンジンでトレードが約定すると、トレードを開始したトレーダーに注文確認書が送られる。取引所自身も、マーケットデータや取引所関連の状況メッセージといった注文報告書以外の情報を伝達する。
プロップファーム、銀行、ヘッジファンドは取引所のマッチングエンジンやマーケットデータフィードに直接つながっている。取引所はこれらの機関が要求する「スピード」を巧みに利用して、彼らにプレミアム価格でコロケーションサービス(彼らのサーバーを取引所のできるだけ近くに設置する)を提供している。遅延に非常に敏感なトレード戦略は、こういったコロケーションサービスにお金を支払う価値は十分にある。
自動化トレーディング業界では、プログラミング、数学、批判的思考は金融のスキルと同じくらい高いか、それ以上に評価される。エンジニアリング、コンピューターサイエンス、物理、応用数学の分野のプログラマーたちは世界中のヘッジファンドやトレード会社で働いている。これらの技術者が担っているのは、ネットワークインフラ、データストレージ、システム統合、データ処理、視覚化、アルゴリズムの開発だ。
今日の電子市場では、トレーダー、技術者、クオンツ間の役割には境界がなくなってきている。この業界では異種ソースからの情報を処理、分析、提示するスキルとその結果に基づいてトレード戦略を開発する能力が広く求められている。私の予想では、そう遠くない将来、トレーダーという言葉は今使われているのとはまったく違った意味を持ってくるだろう。経験豊かな技術者で、市場力学に対する鋭い感覚を持ち、利益の出るトレード戦略を構築・監視・利用するのにデータ駆動型アプローチを使う人。トレーダーはこういう人を指すようになると私は思っている。
市場の接続性、執行、アルゴリズムトレーディング、自動化についてもっとよく知りたい人は、バリー・ジョンソンの『アルゴリズミック・トレーディング・アンド・DMA――イントロダクション・トゥー・ディレクト・アクセス・トレーディング・ストラテジーズ(Algorithmic Trading and DMA : An Introduction to Direct Access Trading Strategies)』がお勧めだ。同書のウェブサイトは、http://www.algo-dma.com/。
●Yahoo Finance
●Quandl
●Google Finance
●Federal Reserve Bank Of St.Louis
本書ではYahoo Financeを使う。Yahoo Financeでは各銘柄とETF(上場投信)の日々の始値、高値、安値、終値を入手することができる。これらのデータは無料だが、使用には注意が必要だ。こうしたデータの質には慎重を期す必要がある。データはクリーニングにし、フィルターにかけて間違った数値は取り除かなければならない。
別の選択肢としては自分でデータを取り寄せる。これがベストだ。しかし、これにはそれ相応のインフラが必要で、コストも高くつき、時間がかかる。機関投資家、銀行、プロップファームがやっているのがこの方法だ。彼らは世界中のさまざまな取引所と直接つながっているからこれが可能なのだ。通常、彼らのサーバーは取引所内に設置され、これらのマシンがデータをディスクに保存する。そのあと生データは処理され、クリーニングされ、将来的な検索のためにデータベースに保存される。
これらの中間的な方法がデータをサードパーティーベンダーから入手する方法だ。こうしたベンダーは数多く存在し、データの質は貧弱なものから優秀なものまで玉石混交だ。お勧めのデータベンダーは以下のとおりである。
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