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ウィザードブックシリーズ Vol.231

Rとトレード 確率と統計のガイドブック

Rとトレード 確率と統計のガイドブック

2015年12月発売/A5判 382頁
ISBN978-4-7759-7200-7 C2033
定価 本体7,800円+税

著 者 ハリー・ゲオルガコプロス
監修者 長尾慎太郎
訳 者 山下恵美子

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目次 | 著者紹介

クオンツによるクオンツのためのガイドブック
クオンツやトレーダーたちに立ちはだかる問題を解決するために

 金融データ分析を行ったり、モデル駆動のトレード戦略を構築するクオンツやトレーダーたちは、毎日どういったことをやっているのだろうか。

 本書では、クオンツ、講演家、高頻度トレーダーとしての著者の経験に基づき、プロのクオンツやトレーダーたちが日々遭遇するさまざまな問題を明らかにし、それを解決するための分かりやすいRコードを紹介する。

 プログラミング、数学、金融概念を使って簡単なトレード戦略の構築と分析を行うことに興味のある学生、研究者、実践家たちにとって、本書は素晴らしい入門書になるはずだ。分かりやすく包括的に書かれた本書は、データの調査や戦略の開発を行うにあたり、人気のR言語を使えるようにすることを主眼としたものだ。

 本書では、基本的なトレードの概念と、クオンツやトレーダーたちが拠って立つ数学、データ分析、金融、プログラミングを分かりやすく説明していく。各ケーススタディーは、読者の記憶に残りやすいように、細かくモジュールに分けて説明する。各章は数学、金融、プログラミングをバランスよく含み、統計、データ分析、時系列の操作、バックテスト、R言語によるプログラミングといった多岐にわたる題材をカバーしている。

 本書は、非常に読みやすいながらも、各題材を徹底的に掘り下げているので、ガイドブックとしても便利に使える。本書を読み終えるころには、クオンツトレード分野の学術研究者や実践家たちが使っているR言語と関連するパッケージに関する知識が身についていることだろう。

本書への賛辞

「R言語による堅牢なクオンツトレード戦略の構築方法を、プロの実践家としての目を通して提供する本書は、アルゴリズムトレーディングシステムの基盤としてのRの能力について書かれた最初の本である。プロにとっても初心者にとっても貴重な1冊であり、そのまま古典としても通用する。かなりの量のRコードが含まれているので、読者はそのまま使うこともできるし、もっとエキゾチックな関数やスクリプトを開発するのに利用することもできる。本書があれば費用のかかるソフトウェア開発やMATLABライセンスは不要だ。Rをダウンロードすれば、利益の出る戦略の開発を即座に始めることができる。ゲオルガコプロスはこの金字塔とも言えるべき本書で、まったく新しい世代のヘッジファンドマネジャーを生みだしたに違いない」――エド・ザレック(シカゴ・ボラティリティ・グループのクオンツオプショントレーダー)

「これはクオンツトレーダーを目指す人たちにとっての素晴らしい教科書だ。金融数学の概念と計算方法が同時に提示されているのがよい。また本書に提示されたRコードは読者にとってデータをベースとするトレード戦略を開発するうえで大いに役立つはずだ。やさしく、かつ実践家としての視点で書かれているため、共鳴する読者も多いことだろう」――スティーブン・トッド(ロヨラ大学シカゴ・クインランビジネススクールの教員研究活動の副学部長、元金融学部委員長、金融学部准教授)

「複雑な題材をこれほど分かりやすく解きほぐすとは驚くばかりだ。私は本書を参考書として使っている。ベルベデーレではすでに本書の一部を社員教育の一環として教えている」――トーマス・ハッチンソン(ベルベデーレ・トレーディングLLCの業務執行社員)


著者紹介

ハリー・ゲオルガコプロス(Harry Georgakopoulos)
シカゴのプロップファームでクオンツトレーダーとして勤務するかたわら、ロヨラ大学で数量ファイナンスの非常勤講師も勤める。2007年から高頻度トレーディングの世界でクオンツとして活躍。それ以前はモトローラやアンドリュー・コーポレーションで、RFエンジニアとして移動通信技術用マイクロ波送受信機の設計・テストを行っていた。専門は先物、株式、オプションの自動化トレードシステムの研究開発。シカゴ大学で金融数学の修士号を修得。電気工学の修士号も持っている。


目次

監修者まえがき
謝辞

第1章 概説 (第1章をまとめて読む
ミッションステートメント
金融市場と金融商品
トレード戦略
高頻度トレーディング
オーダーブック(板情報)について
トレードの自動化
データはどこから入手すればよいか
まとめ

第2章 トレードのためのツール
R言語
Rを始めよう
ベクトル――c()オブジェクト
行列――matrix()オブジェクト
データフレーム――data.frame()オブジェクト
リスト――list()オブジェクト
環境――new.env()オブジェクト
plot()関数の使い方
関数型プログラミング
Rで関数を書いてみよう
分岐とループ
推奨スタイルガイド
6つの株式の各ペア間の相関
まとめ

第3章 データの取り扱い
Rにデータを読み込む
Rのパッケージのインストール
データの保存と伝送
スプレッドシートからデータを取り出す
データベースへのアクセス
dplyrパッケージ
xtsパッケージの使い方
quantmodパッケージの使い方
quantmodによるグラフの作成
ggplot2によるグラフの作成
まとめ

第4章 確率と統計――基礎編
統計値とは何か
母集団と標本
Rにおける中心極限定理
不偏性と効率性
確率の基礎
確率変数
確率
確率分布
ベイズ法と頻度論的アプローチ
コインのシミュレーション
RStanの使用について
まとめ

第5章 確率と統計――中級編
確率過程
株価の分布
定常性
urcaによる定常性検定
正規分布を仮定する
相関
データのフィルタリング
Rの公式
線形回帰の「線形」
ボラティリティ
まとめ

第6章 スプレッド、ベータ、リスク
株式スプレッドの定義
最小二乗法と総最小二乗法
スプレッドの構築
シグナルの生成とその検証
スプレッドのトレード
リスクを考える
損益曲線について
戦略の特徴
まとめ

第7章 Quantstratによるバックテスト
バックテストの方法
blotterとPerformanceAnalyticsについて
初期設定
戦略1――簡単なトレンドフォロー
戦略1のバックテスト
パフォーマンスの評価
戦略2――累積コナーズRSI
平均回帰戦略の評価
まとめ

第8章 高頻度データ
高頻度データの建値
建値の到着時間
流動性のある時間帯を見つける
ミクロ価格
分布と自己相関
highfrequencyパッケージ
まとめ

第9章 オプション
オプションの理論的価値
オプションの歴史
オプションの評価
オプションのトレードデータ
インプライドボラティリティ
まとめ

第10章 最適化
放物線
ニュートン法
総当たり法
Rの最適化ルーティン
カーブフィッティングの練習問題
ポートフォリオの最適化
まとめ

第11章 スピード、検証、レポートの作成
実行時間の向上
Rコードの評価
Rcppによる高速化
RInsideを使ってC++からRを呼び出す
testthatによる単体テスト
knitrを使ってレポートを作成する
まとめ

参考資料


監修者まえがき

 本書は、クオンツであり米国の大学の数量ファイナンスの非常勤講師でもあるハリー・ゲオルガコプロスが著した “Quantitative Trading with R : Understanding Mathematical and Computational Tools from a Quant's Perspective”の邦訳である。ここで取り上げられているR言語(以下“R”)は、オープンソース型のプログラミング言語で、だれでも無償で利用できること、有志の開発者が多く豊富なライブラリーがそろっていること、そして統計解析に向いていることが特徴である。このため金融機関のクオンツや金融工学系の学生にとって、RはVisual Basic系の言語に次いで利用頻度が高い言語になっている。実際、統計解析におけるRの機能は、GUI(graphical user interface)が弱い点を除けば、SASやSPSSといった有償の統計パッケージと比べても一般的な使用においてはほとんど遜色がない。このような統計ツールは、Excelに代表される汎用ビジネスツールやMetaTraderのようなトレードツールしか使ったことがない投資家やトレーダーにとっては異次元への扉であって、手にした人は、初めて西洋文明に触れた明治初期の日本人のような驚きを感じることになる。本書はトレードシステムの開発を志向したRの入門書として初めてのものになるが、この方面で読者が抱えるかなりの問題はこれで解決されると思われる。

 だが、Rは極めて便利なツールである一方で両刃の剣でもあり、あくまで正しい使い方を知ることでのみ本来の威力を発揮する。現在、巷に見られるほとんどのトレードシステムは、実証主義由来のシステム科学のパラダイムで動いている。理論的には対象とする系をハードシステムとして理解できればシステマティックな扱いが簡単になるが、マーケットのように複雑でかつ多元的な世界をすべて構造化し未来を予測することはそもそも不可能である。その意味では、既存の多くのトレードシステムはかなりの無理をしていることになる。そうした矛盾を避けるために、一般的には次善の策として確率モデルが導入されることになる。これはRに代表される統計ツールの得意な分野である。そしてそれと同時に、マーケットにおいて確率モデルがシステム科学の観点からどの階層まで有効であるのか、その境界を見極めることが非常に重要になる。逆に、もしそれができなければ、統計解析を精緻に行えば行うほど、実際の結果は悲惨なものになり、結果として使い手はひどく傷つくことになるだろう。

 つまり、優れた道具であるRを生かすも生かさないのも、すべてはシステム一般に関するメタな知識や視点による判断の巧拙次第なのである。ここで、初心者の方のために、この分野の学習に適した書籍を以下に2冊挙げておく(システム科学が体系的に学べるのなら、これら以外の本でも構わない)。本書と併せてお読みいただければ参考になると思う。

①ピーター・チェックランド著『新しいシステムアプローチ――システム思考とシステム実践』(オーム社。1985年)
②ハーバート・サイモン著『システムの科学』(パーソナルメディア。1987年)

 最後に、翻訳にあたっては以下の方々に心から感謝の意を表したい。山下恵美子氏は正確かつ迅速な翻訳を行っていただいた。そして阿部達郎氏にはいつもながら丁寧な編集・校正を行っていただいた。また、本書が発行される機会を得たのは、パンローリング社の後藤康徳社長のおかげである。

 2015年11月

長尾慎太郎


第1章 概説

 私が本書を書いた第一の目的は、実践でも学術研究でも利用できる基本的なプログラミング、金融、および数学のツールを読者に提供することにある。本書では金融マーケットデータを操作し、クオンツやトレーダーたちが日常的に遭遇する問題を解決するための手段としてのR言語およびR環境について説明する。このあとの各章は、私が個人的に有用であると感じ、クオンツトレーダーおよび開発者としてこの数年、私にとって役に立ったツールのチュートリアルと考えてもらいたい。私は本書を学術研究者の視点ではなく、クオンツ実践者の視点で書いている。本書の大部分は、私がシカゴのロヨラ大学で非常勤講師として教えている数量ファイナンスの大学院生レベルのクラスのレクチャーノートに基づいている。

 本書は入門書なので、プログラミングの経験や高度な数学の知識は必要ではない。とはいえ、数学やプログラミングの基礎的な知識があればスムーズに読み進めることができる章もある。数学関係では、微積分の基礎、線形代数、確率統計(基礎的な数学のスキルをブラッシュアップするための学習サイトで最もお勧めなのはカーン・アカデミー[Khan Academy]だ。特にお勧めなのが次のコースだ。線形代数微分積分確率統計)を見直しておくことをお勧めする。

 また、プログラミング関係では、VBA、パイソン(Python)、SQLの知識があればなおよい(パイソンはさまざまなデータ処理と分析が得意な人気のスクリプト言語だ。学術界からも業界からも大きな支持を得ている。基本情報については以下のサイトを参照してほしい。https://wiki.python.org/YouTube。YouTubeのWiseOwlTutorialsはエクセルVBAおよびSQLの入門ビデオシリーズを提供している。エクセルVBAとSQLは金融の世界では幅広く使われているため、学習しておくと役に立つこと請け合いだ。YouTubeのプレイリストはこちらのウェブサイトからアクセス可能だ)。

 本書は初心者だけでなく、金融データの分析方法やワークフローを自動化するためにR言語の書き方を学びたい実践家やベテラントレーダーにとっても役立つはずだ。

 トレードもプログラミングもそれ自体大きなテーマなので、本書で完全な説明をしようとは思っていない。本書を読んでもプロのプログラマーになれるわけではなく、私のアドバイスに従っても市場で巨額の富を手に入れることはできないだろう。本書はトレード戦略や関連するクオンツ関連のテーマを分析、実装、提示する手助けになるツールとアイデアを提供するものだ。図1.1はこのあとの章で扱うテーマを示したものだ。

 ミッションステートメント

 本書で取り上げる概念は若干ファジー――トレード戦略の作成――だが、必然的な質問に対しては妥当な回答を示していきたいと思う。質問としては次のようなものが考えられるだろう――トレードアイデアを自動化するにはどうすればよいのか、どのプログラミング言語を使えばよいのか、そしてその理由は? 戦略を評価するにはどんな数学ツール、ファイナンスツール、プログラミングツールが必要か、トレード戦略を検証するためのデータはどこで入手すればよいのか、戦略の善し悪しはどのように判断すればよいのか、得られた結果は他者に対してどのように提示すればよいのか。

 プログラミング本の大部分は参考書として使われることが多い。興味のある項目を見つけたら、そこに書いてあるページを開く。しかし、本書を最大限に活用するためには、この方法には従わないでもらいたい。最初からすべての章を書かれた順序どおりに読み進めていってもらいたい。これにはちゃんとした理由がある。読者に数量ファイナンスの考え方に触れてもらいたいのと、数量ファイナンスを考えていくうえで自然に発生する現実世界における問題に立ち向かう自信をつけてもらいたいのだ。本書を最初から章に沿って読み進めることで、こうしたことを達成しながら、Rを使って望むタスクを自動化できるようになるはずだ。

 自分がどこに向かおうとしているのか、その過程ではどんな障害が待ち受けているのかを知るうえで、頭のなかに地図を描いておくことは賢明だ。私たちの最終目標は、クオンツやトレーダーたちがよく出くわす問題を解決できるように必要なプログラミングスキルを身につけることだ。そしてもう1つの目標は、金融データを操作して、数学のテクニックを使ってトレード戦略を評価することである。

 目標をより具体化するために、目標をミッションステートメントとして書いてみよう。出来上がったミッションステートメントは以下のとおりである。

流動性のある商品のポートフォリオを市場でトレードする自動化されたトレード戦略を構築する。その戦略は効率的で、堅牢で、拡張性のあるものでなければならない。また、その戦略は利益をもたらし、リスクは低くなければならない。

 このミッションステートメントを読んだあと、当然ながら次のような疑問が生じるはずだ。

  1. 市場とは何か。
  2. 商品とは何を意味するのか。また流動性のある商品とは何か。
  3. トレード戦略とは何か。どのように構築すればよいのか。
  4. トレード戦略の収益性とはどのように定義されるのか。
  5. リスクとは何か。トレード戦略の文脈でリスクはどう定量化すればよいのか。
  6. トレード戦略を自動化するにはどうすればよいのか。
  7. 効率的(効率性)とはどういう意味か。

 金融市場と金融商品

 市場とは、参加者の間で取引が発生する物理的、あるいは仮想的な場所だ。古代ギリシャではアテナイ人たちはアゴラ(古代ギリシャではアゴラは人々の集まる場所を意味し、通常は都市の中心部に位置し、市民は政治家のスピーチを聞いたり、投票したり、商品を取引するのに集まった。現在のギリシャ語の「私は買う」(agorazo)と「私は公に話す」(agorevo)は、アゴラ(agora)から派生したものだ[68、113])に集まり、蜂蜜、オリーブオイルなどの農作物や芸術品を似たような物と物々交換した。物の取引は同種の物と交換するという形で行われていた。古代世界では至るところで同様の市場が存在した。今の物理的市場と同様、こういった物理的市場では、参加者は価格と引渡条件を物理的に満たし同意しなければ、取引を確定することはできない。

 今日では物理的市場の多くは仮想的市場へと姿を変えている。アマゾン、イーベイ、アリババは仮想的市場の良い例だ。これらは買い手と売り手がコンピューターだけを介して取引する広大なオンライン市場である。この数年にわたって金融市場でも同じようなトレンドが発生している。フロアピットで取引されていた商品先物、株式、オプション取引は電子市場へと移行している。表1.1はCME(シカゴ・マーカーンタイル取引所)取引所の電子取引とフロア取引の出来高の比率を示したものだ。GlobexはCMEの電子取引システムのことである。

 組織化された市場の主たる目的は、商品やサービスを同意した価格で取引したい参加者を引き合わせることである。成功する市場の二次的な目的は、そうした取引を促進することである。電子金融市場はこの目的にぴったり合致する。

 金融取引所や電子取引所は世界中に何百と存在する。表1.2は有名な証券取引所を示したものだ。

 表1.3は有名な先物取引所を示したものだ。

 こうした取引所では標準化された金融取引が効率的かつ秩序正しく行われる。金融商品は株式、先物、債券、通貨、バニラオプション、エキゾチックオプション、スワップ、スワプションなどなどいろいろある。なかには特に人気のある商品もある[35]。例えば、CMEで取引されているEミニ金融先物とユーロドルは世界で最も流動性が高い。投資家やトレーダーたちは自分たちの市場や金利リスクを日々管理するのにこうした市場を使う。表1.4はCMEの主たる先物契約の日々の平均出来高を示したものだ[36]。

 流動性は、一定量の商品を望む価格でどれだけ簡単に売買できるかの目安になるものだ。流動性は大ざっぱに言えば、取引された出来高の代理と考えることができる。投資家やトレーダーは流動性のある商品が好きだ。なぜならこういった商品は価格に悪影響を及ぼすことなく大量に取引することができるからだ。

 トレード戦略

 金融機関はこの地球上で最も厳しく規制された存在だ(金融機関の規制は、少なくとも米国では控えめに言ってもかなり複雑だ。株式とオプションの取引所では、SEC[証券取引委員会]が支配的な力を持っている。  

SECは1934年の証券取引所法によって設立された。SECは米国の金融史で最も騒然とした時期に設立された。http://www.sec.gov/ によれば、SECの目的は投資家を保護し、フェアで秩序正しい効率的市場を維持し、資本形成を促すことである[139]。

 一方、オプション市場や先物市場はCFTC[米国商品先物取引委員会]によって管理されている。CFTCは商品先物取引委員会法に基づき1974年に農作物取引監督局の後継として設立された[118]。SECとCFTCは異なる実体だが、互いに協力して任務を遂行している。CFTCについてもっとよく知りたい人はこちらを参照のこと)。これには一長一短ある。短所は、競争とイノベーションを阻害してしまうことだ。長所は、市場参加者が取引の有効性や公平性を確信することができることだ。取引の有効性を信じられるということは非常に重要なことだ。こうして投資家やトレーダーは、電子市場にアクティブに参加する電子トレードシステムの開発によって多くの時間とお金を注ぎ込もうという気になるのである。投資家やトレーダーがある金融商品に対して買い注文や売り注文を出すことで合法的に利用することができる機会を見つけたとき、トレード戦略が生まれる。トレーダーが取引で利益を実現するためには、手仕舞いを行わなければならない。トレード戦略には保有期間というものがある。保有期間は、数マイクロ秒から数年までいろいろだ。トレード戦略にはさまざまなものがある。長期戦略、短期戦略、オポチュニスティック戦略、高頻度戦略、ローレイテンシー(レスポンスが速い)戦略など多岐にわたる。どういった名前が使われようと、トレード戦略は、トレーダーが利益を出すという最終目的のために用いるよく定義されたルールの集合体にすぎない。トレード戦略は、市場における構造効果や、金融商品間の統計学的関係、あるいは極端な情報の流れを利用して利益を生みだすのである。

 高頻度トレーディング

 高頻度トレーディングは非常に短い間に売買を繰り返すトレード戦略と思われがちだが、実際にはそれよりも広い意味を持つ。高頻度トレーディングではトレードの保有期間は必ずしも1秒未満である必要はない。仕掛けるときは瞬時に仕掛けるが、保有期間はそれよりもはるかに長いといったことはよくある。機会を探すために市場を徹底的に調べ尽くすが、機会が見つかったときには限定された数のトレードしか仕掛けないアルゴリズムのことを指す場合もある。これらのアルゴリズムはマーケットデータを高頻度で処理するが、トレードはそれほど高頻度では執行しない。人々をさらに混乱させる要因として、高頻度トレーディングはローレイテンシートレーディングと混同される場合もある。高頻度トレーディングやローレイテンシートレーディングは処理速度の速いコンピューターとネットワーク接続を使うので、混同されやすいのだ。さらにこれらの戦略の多くはマーケットメイキング(クォートドリブン)戦略、マーケットテイキング(オーダードリブン)戦略、オポチュニスティック(機会主義的。機会があるときだけ投資して、機会がないときは現金を保有する)戦略に分類することができる。

 高頻度マーケットメイキング戦略は、トレーディングアルゴリズムがほかの市場参加者に常に流動性を提供するような戦略を言う。この戦略では、アクティブなトレーダー(トレードの逆サイドを取るトレーダー)がパッシブな(マーケットメイクする)アルゴリズムよりも情報量が多いという内在的リスクがある。こうした情報の非対称性を補うために、マーケットメイクするトレーダーに金銭的補償をする取引所もある。マーケットメイキング戦略がとらえられる利益は、マーケットテイキング戦略がとらえられる利益よりも少ない。利益が少ない分は量で稼ぐ。マーケットメイキング戦略は1トレード当たりわずか1ティックの利益に甘んずることもある。ティックとは、取引所で時々刻々と変化する値動きの最小単位のことを言う。実際にはこうした戦略は結局のところ、価格の逆行によって1ティックの数分の1しかとらえることができない場合も多い。

 一方、マーケットテイキング戦略はトレード機会が発生すると指値を入れることなく買い気配値や売り気配値で売買する。こうしたトレード機会は、マーケットデータを分析しているアルゴリズムからの買いシグナルや売りシグナルの結果として発生するか、強気のニュースや弱気のニュースから発生する。こうしたタイプの戦略では、価格よりも執行の即時性が優先される。マーケットテイキング戦略はマーケットメイキング戦略よりも、1トレード当たりより大きなエッジを必要とする。

 オーダーブック(板情報)について

 オーダーブックはすべての市場参加者の指値注文を一覧にしたものだ(一般に、電子取引所に対してトレーダーが行えるアクションは3つある。1つ目は成り行き注文を出すこと。成り行き注文はスピーディーな約定が最重要事項であることを取引所に告げるもので、価格はそれほど重要視されない。2つ目は指値注文を出すこと。この場合は価格が重要だ。約定の速さよりも価格のほうが重視される。3つ目は注文の変更や取り消しだ。オーダーブックでは指値注文が主流を占め、成り行き注文を約定させたい人に安定した流動性を提供する)。オーダーブックはクリックトレーディングを行ったり、買い手と売り手の間で注文をマッチングさせるうえで、トレーダーや取引所にとって非常に便利なデータ構造だ。オーダーブックは、左側に買いが提示され、右側に売りが提示される。図1.2は価格と数量を縦方向に並べたオーダーブックを示したものだ[29](縦方向に表示するオーダーブックはトレーディングテクノロジーズ社の特許。米国特許No.6,766,304および6,772,132[2004年])。

 最良の買い気配値は、パッシブなトレーダーが買いたいと思う最高価格で、最良の売り気配値は、パッシブなトレーダーが売りたいと思う最低価格だ。図1.2の例では、最良の買い気配値は8で、最良の売り気配値は9である。また、最良の買い気配値の数量は125で、最良の売り気配値の数量は100である。さらに、最良の買い気配値には目立った注文が1つ、最良の売り気配値には目立った注文が4つあることも見て取れる。これらの数字が変化すると、マーケットデータイベントが発生したことが分かる。例えば、価格7で1単位の注文の取り消しが発生したり、2番目に最良の売り気配値で新たな注文が発生したりといったことが考えられる。したがって、2番目に最良の買い気配値の新たな数量は199になり、2番目に最良の売り気配値の新たな数量は増えることになる。どの取引所でも多くの商品が売買されていることを考えると、取引所が送受信したり取引所に蓄えられる情報量は巨大な量になることは簡単に察しがつく。この事実と、取引所が各トレーダーにリアルタイムで注文状況の情報を伝えなければならないことを考えると、こうしたデータを処理・保存するインフラがどれくらい複雑かは簡単に想像がつくはずだ。

 トレードの自動化

 ピットで売買が行われた時代はそれほど遠い昔のことではない。通常の注文の流れは次のようになっていた。まず投資家がブローカーにトレードの意思のあることを電話か直接会って伝え、ブローカーはピットにいる彼らの仲間にその情報を伝える。相手側当事者がその反対売買の意思がある場合、取引は成立し、その旨がブローカーに伝達される。そして、ブローカーは顧客に執行価格と数量を伝える。

 今日ではテクノロジーの発達によって、トレードの仕掛けや手仕舞いは昔よりもはるかにスピーディーに行われるようになった。インタラクティブブローカーズ、Eトレード、アメリトレードなどによって提供される自動化トレーディングプラットフォームはトレードの仕掛けを素早く行うことを可能にし、しかもコストは安い。買い手と売り手のマッチングは、取引所自らが運用する集中マッチングエンジンでほぼ瞬時に行われる。マッチングエンジンはすべてのオーダーフローをトラッキングし、正しい数量をタイムリーに買い手と売り手に割り当てるコンピューターシステムだ。マッチングエンジンでトレードが約定すると、トレードを開始したトレーダーに注文確認書が送られる。取引所自身も、マーケットデータや取引所関連の状況メッセージといった注文報告書以外の情報を伝達する。

 プロップファーム、銀行、ヘッジファンドは取引所のマッチングエンジンやマーケットデータフィードに直接つながっている。取引所はこれらの機関が要求する「スピード」を巧みに利用して、彼らにプレミアム価格でコロケーションサービス(彼らのサーバーを取引所のできるだけ近くに設置する)を提供している。遅延に非常に敏感なトレード戦略は、こういったコロケーションサービスにお金を支払う価値は十分にある。

 自動化トレーディング業界では、プログラミング、数学、批判的思考は金融のスキルと同じくらい高いか、それ以上に評価される。エンジニアリング、コンピューターサイエンス、物理、応用数学の分野のプログラマーたちは世界中のヘッジファンドやトレード会社で働いている。これらの技術者が担っているのは、ネットワークインフラ、データストレージ、システム統合、データ処理、視覚化、アルゴリズムの開発だ。

 今日の電子市場では、トレーダー、技術者、クオンツ間の役割には境界がなくなってきている。この業界では異種ソースからの情報を処理、分析、提示するスキルとその結果に基づいてトレード戦略を開発する能力が広く求められている。私の予想では、そう遠くない将来、トレーダーという言葉は今使われているのとはまったく違った意味を持ってくるだろう。経験豊かな技術者で、市場力学に対する鋭い感覚を持ち、利益の出るトレード戦略を構築・監視・利用するのにデータ駆動型アプローチを使う人。トレーダーはこういう人を指すようになると私は思っている。

 市場の接続性、執行、アルゴリズムトレーディング、自動化についてもっとよく知りたい人は、バリー・ジョンソンの『アルゴリズミック・トレーディング・アンド・DMA――イントロダクション・トゥー・ディレクト・アクセス・トレーディング・ストラテジーズ(Algorithmic Trading and DMA : An Introduction to Direct Access Trading Strategies)』がお勧めだ。同書のウェブサイトは、http://www.algo-dma.com/。

 データはどこから入手すればよいか

 金融データは成功するトレーディングビジネスに不可欠なものだ。トレードを始める前に、戦略の作成段階でその戦略がどう機能するのか感触をつかむことが重要だ。その戦略がどう機能するのかを知るには、ヒストリカルデータを分析し、提案された戦略のリアルタイムデータ、マーケットイベント、経済指標の発表などをモニタリングすることが必要だ。しかし、そういったデータはどこから入手すればよいのだろうか。特に、株式価格、先物価格、経済指標などの時系列データはどこから入手すればよいのだろうか。日々のデータについては次のサイトが人気があり無料で入手可能だ。

Yahoo Finance
Quandl
Google Finance
Federal Reserve Bank Of St.Louis

 本書ではYahoo Financeを使う。Yahoo Financeでは各銘柄とETF(上場投信)の日々の始値、高値、安値、終値を入手することができる。これらのデータは無料だが、使用には注意が必要だ。こうしたデータの質には慎重を期す必要がある。データはクリーニングにし、フィルターにかけて間違った数値は取り除かなければならない。

 別の選択肢としては自分でデータを取り寄せる。これがベストだ。しかし、これにはそれ相応のインフラが必要で、コストも高くつき、時間がかかる。機関投資家、銀行、プロップファームがやっているのがこの方法だ。彼らは世界中のさまざまな取引所と直接つながっているからこれが可能なのだ。通常、彼らのサーバーは取引所内に設置され、これらのマシンがデータをディスクに保存する。そのあと生データは処理され、クリーニングされ、将来的な検索のためにデータベースに保存される。

 これらの中間的な方法がデータをサードパーティーベンダーから入手する方法だ。こうしたベンダーは数多く存在し、データの質は貧弱なものから優秀なものまで玉石混交だ。お勧めのデータベンダーは以下のとおりである。

 まとめ

 本章の最初のいくつかの項目では、本書の目的と読者対象について述べた。このあとの章で述べるテクニカルな議論を理解するためには、若干の数学とプログラミングの知識が必要だ。このあとの分析にアクティブに取り組んでもらうために、望ましいトレード戦略の最終目標を述べたミッションステートメントを提示した。また、金融市場、金融商品、トレード戦略についても簡単に説明した。そして最後に、高頻度トレーディング、戦略の自動化、日々および日中の金融データの入手方法について述べた。

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