目次

監修者まえがき                   1
免責事項                   4
はじめに                   9
謝辞                   21

第1部 パフォーマンスの評価                   23
第1章 パフォーマンスの測定                   25
 総損益                   26
 日中最大ドローダウン                   28
 必要資金と運用成績                   29
 1トレードの平均損益                   31
 最大の勝ちトレードと最大の負けトレード                   32
 総利益と総損失                   32
   プロフィット・ファクター                   33
 勝ちトレードの平均利益と負けトレードの平均損失                   35
 (勝ち/負け)トレード回数と1トレードの平均日数                   35
 最大連続勝ちトレードと最大連続負けトレードと勝率                   36
 コード                   39

第2章 より効果的な指標                   41
 スリッページと手数料                   42
 1トレード当たりの利益                   47
 最大の勝ちトレードと最大の負けトレード                   50
 累積利益と最高資産額                   53
 ドローダウン                   54
 回復期間と資産増加期間                   58
 コード                   60

第3章 先物のデータ                   67
 つなぎ足                   68
 ポイントベース修正つなぎ足データ                   70
 比率修正つなぎ足データ                   73
 マルチマーケット・ポートフォリオ                   77
 永久つなぎ足                   80

第1部の最後に                   85

第2部 システムのコンセプト                   87
第4章 天井と底をとらえる                   91

第5章 データマイニング                   95
 データのより有効な活用                   106
 基本的な手仕舞いのテクニック                   117

第6章 トレードすべきか、しないべきか                   135

第7章 トレンドに従う                   139
 移動平均                   141
 ダイナミック・ブレイクアウト・システム                   157
 標準偏差ブレイクアウト                   170

第2部の最後に                   179

第3部 手仕舞い                   183
第8章 効率的なトレード                   187
 ドローダウン                   190

第9章 スイーニーのMAE(最大逆行幅)とMFE(最大順行幅)                   217
 MAE/MFEを超えて                   234

第10章 長期の手仕舞いテクニックの追加                   249
 ダイナミック・ブレイクアウト・システム                   250
 標準偏差ブレイクアウト・システム                   262

第11章 ランダムな仕掛けのポイント                   275
 ゴールドディガー・システム                   280
 蛇行システム(週ベースデータ)                   290
 ブラックジャック・システム                   299

第3部の最後に                   324

第4部 高確率フィルター                   327

第12章 フィルタリング                   329
 短期システムのトレンドフィルター                   332
 ゴールドディガー・システム                   342
 蛇行システム                   346
 ブラックジャック・システム                   347

第13章 長期のボラティリティ・フィルター                   349
 DBSシステム                   356
 SDBシステム                   357
 ディレクショナルスロープ・システム                   362

第14章 トレンドを創造するもの                   365

第4部の最後に                   383

第5部 資金管理とポートフォリオ構成                   387

第15章 資金管理                   389
 資金管理戦略の実践的運用                   406
 短期システム                   411
 長期投資戦略                   438
   標準偏差ブレイクアウト戦略                   438
   ディレクショナルスロープ戦略                   447
   DBS戦略                   456

第16章 ポートフォリオの構成                   459
 総資産寄与率Ⅰ                   459
 相関性と共分散                   464
 総資産寄与率Ⅱ                   467

第17章 信頼性の構築                   473
 非対象期間の検証                   473
 入力値の変更                   479

第5部の最後に                   481
 バック・トゥ・ザ・フューチャー                   486

 監修まえがき


 トレーディングシステムで難しい問題のひとつは、システムの検証結果がどのような基準を満たせば実際に売買できるのかということだと思う。成績が良ければ良いほど好ましいのは明白であるが、再現性の乏しい好成績ではなんの意味もない。監修者の知るかぎりにおいて、この問題に明確な答えはなく、すべてはトレーダー個人の判断に委ねられている。
 しかしそのベースとなる成績の評価方法に間違いがあったとしたらどうだろうか。それはシステムのロジックを議論する以前の悲劇である。本書によると、トレードステーションが出力する金額ベースの成績には何の価値もない。比率による成績表示でないとシステムの素顔は分からないし、再現性の高い指標は得られないというのだ。これを受けて多くの読者が今までの検証方法を見直すことと思う。特に株式のシステムトレーダーにとって本書のインパクトは大きいだろう。読者の便宜を図るため、EasyLanguage のコードと Excel のマクロも提供されている。
 本書はその評価法をベースに、機能するシステムを題材として取り上げ、手仕舞いを強化し、マネーマネジメントを適用する過程をバランス良く詳述している点でも評価できる。採用するマネーマネジメントを前提にシステムを調整するアイデアはなかなか得難いものである。さらに、個別トレードの詳細分析という点で、本邦では本書の右に出るものはないだろう。
 最後に本書が広範囲にわたるシステムトレーダーのレベルアップに貢献してくれることを願ってやまない。

 2002年7月 パンローリング株式会社チーフアナリスト 柳谷雅之


 はじめに

 2年間にわたってフューチャーズ誌の編集者として、またライターおよびテクニカ ルアナリストとして務めた結果、ほとんどのトレーダーが犯す大きな間違いは、次の ようなものであることが分かった。知識の細かい断片を寄せ集めてトレーディング戦 略を構築し、そこから大金を得ようと試みるものの、リスク管理や資金管理の知識を 持ち合わせておらず、システムがある種のマーケットでは機能しない理由も、最大の ドローダウンがこれから起こる理由も、設計どおりに機能しているシステムを使って いるのに破産してしまう理由も分からない。そして驚くべきことには、この傾向はプ ロフェッショナルとして長年認められたトレーダーにも、プロフェッショナル気取り のアマチュアトレーダーにも共通しているのである。
 もうひとつの共通した間違いは、資金のニーズと効率性を考慮せず、トレーディン グ方法を徹底的に調査しないというもので、これは特に少額のマネーを扱う投資家に 多く見られる。取引口座のサイズが大きくなるにつれて、より「洗練された」トレー ディング戦略やマーケットの複雑さについて学ぶ時間も多くなると考えるかもしれな い。しかし、そうではない。マネーはマネーであり、最初のトレーディング方法で成 功できなければ、長年巨額の資金を運用してきたマネジャーであろうと、1万ドルの 資金を扱う初心者であろうと、その資金を失ってしまうであろう。資金管理戦略を用 いずに基本的な移動平均交差法だけを使って1万ドルの資金運用(それが唯一のト レーディング知識と使える資金のすべてだとして)を行って、巨額の資金とあらゆる トレーディング知識を駆使した場合よりもすぐれた成績を収めることができるだろうか。
 最初から正しい方法でトレーディングを行うだけの知識と十分な資金を持ち合わせ ていないのであれば、トレードを実行すべきではない。そのような状態でトレードを 実行すれば、確かに、より「洗練された」トレーディング戦略について学ぶ時間はた っぷりあるかもしれないが、トレーディングを行っているときには、そんなことは不 可能であることが分かるはずである。そのようなときはぜひ筆者に問いかけてほし い。筆者は最初にそれを経験したのである。
 本書は、トレーディングが容易でなものではないことを悟りながらも、失われた断 片を特定できず、いまだにパズルの全体を埋めることができないでいる、あらゆるレ ベルのトレーダーに向けたものである。トレーディングの成功を阻んでいるものはお そらく、より洗練された戦略を組み合わせて成功の確率を高める方法についての全体 的な理解の不足であろう。本書では、このトレーディング戦略についての全体的な理 解を深め、パズルの全体を埋めるために最大限の労力を費やしたつもりである。
 現在、筆者は主にアナリストとライターとして活動しており、トレーダーとしての 活動は行っていない。しかし、過去にはトレーダーとして活動し、現在ではいくつか のシステムを使って他人にトレーディングを行わせている。多くのトレーダーは、誤 った情報を与えられており、トレーダーでなければマーケットがどのように動くかを 理解できないと考えている。しかし、それは大変な間違いと言わざるを得ない。数学 に優れているからといって語学にも堪能とは限らないし、運転技術が優れているから といって豊富な技術知識を持っているとは限らない。優秀なトレーダーだからといっ てアナリストとしても優秀であるとは限らないし、その逆もまた然りである。それ に、アナリストでもありライターでもあることは選択の問題であり、自分は単に長時 間モニターの前に座って時間を過ごすことに耐えられなかっただけのことである。そ して、次第にトレーディングに関することを書くようになったのである。
 アナリストとして、またシステムとメカニカルなトレーディングの専門家として、 自分の戦略に関するかぎり、それに必要なトレーディングの技術を持っていなければ ならないと考えている。筆者を信用しない人もいるかもしれないが、本書を読み進ん でもらえばそれが間違いであることが分かるであろう。ページを読み進むにつれて、 高度で革新的であると私が信じるテクニックに基づいた有用なツールが紹介されてい く。それらは、高度に洗練された水準にあり、マーケットに関する知識は、読者が現 在「入手できる」ものをはるかに超えたものであると信じている。
 本書のなかでしばしば学術的な専門用語を使うことがある。例えば、標準偏差、尖 度、数学的期待値といった用語を使用し、数学的な計算を行う場合もある。しかし、 それはけっして科学者や統計学者、物理学者、精神科医になることを意図したり、そ の他の学位を取ろうとしているのではない。事実、本書で使用しているテクニックに は、彼らから借用したものもあり、筆者がこれらの分野に実は無知であることの証拠 を発見する場合も少なからずあるであろう。しかし、そんなことは問題ではない。最 も強調したいことは、マーケットを分析するのにロケットサイエンティストである必 要はないということである。既存の書物から得ているものにほんのわずかの知識を追 加し、あえて「常識の枠」から少しばかり踏み出せばいいのである。その点について は筆者は一切弁解しない。
 新しいものを説明しようとするとき、教える側はしばしばジレンマに直面すること がある。Cを説明しようとすれば、まずAとBから説明しなければならないが、それ らは互いに関連し合っている。したがって、Aを理解するにはBとCを理解しておか なければならない。本書の性格として、できるかぎりロジカルな順序で簡潔に説明し ようと努力したが、2つの新しいことを同時に説明せざるを得ないケースが常に存在 する。他にも、あるトピックを意図的に説明しないままにして、後からそのトピック についてより詳細な分析と説明を行うようなケースもある。ときには、簡略化して説 明することで多少のごまかしを行っている場合もある。限られた紙面ですべてのこと を説明し尽くせなかったため、ご容赦願いたい。本書から価値のあるものを得ること で満足いただけたら幸いである。
 本書は実用的なものであると認められると考えているが、けっしてだれにでも使え るような簡単なトレーディングシステムではない。そのようなシステムは存在しな い。本書は独自のトレーディング機会を発見するのに役立つものでもないし、そのよ うな機会を簡単に見つけだして何かを行う方法を説明したものでもない。そのような ものに見えるかもしれないが、けっして目新しいテクニックやトレーディング戦略を 扱ったものではない。
 本書は、トレーディングのプロセスの構築を始める前に推論を検討して、真のト レーディング戦略といえるものを統合する方法を説明したものである。真のトレーデ ィング戦略とは、孤立した単独の決断の連なりではなく、長期間にわたって機能する 作業プロセスのことである。これはそしりを恐れずにいえば「哲学」とでもいうもの である。有効に機能する統合された戦略の背後にある哲学とは、マーケットを動かし ているものの背後にあってその動きの根底となるもので、それを理解することによっ て、戦略が有効に機能する、あるいは機能しない理由が明らかになる。
 トレーディング戦略とは、「プロセス機構」のことであり、ひとつの決断が自動的 に次の決断を引き出し、それが続いていって永続的に機能する永久機関のようなプロ セスを生み出すものであることを理解してほしい。そして永久機関のように、トレー ディング戦略は繊細で、必要最小限の部品で構成され、それがより大きな全体構造を 形成し、エネルギーの損失は発生しないのである。可能であれば、それぞれの部品が ほかのすべての部品を考慮したうえで統合され、さらにほかの部品の一部となるのが 理想的である(これは本書の哲学的な特徴である)。実際には不可能であるが、ほ ぼ、それぞれの部品が、自動車を機能させる部品であると同時に自動車そのものであ り、すべての部品を構成しているという状態である。
 しかし、永久機関が現実には存在しないように、優れたトレーディング戦略を統合 することは、バランスのとれた自動車を購入するのに似ている。このすべての作業を 行いながら、自分のニーズと現在の経済的状況その他を考慮しなければならない。例 えば、NASCAR(全米自動車競走協会)に出場するレーシングカーを買えるだけの資金 があったとしても、日曜日に家族と出かけるのにそんな車や地ならし機などを使った りはしないであろう。ランボルギーニと比べれば、ステーションワゴンやミニバンな どはつまらないものかもしれないが、たいていは日常生活の必要に応じた車を選ぶで あろう。同じことがトレーディング戦略についてもいえる。まず、自分のトレーダー としてのタイプと適した戦略のタイプを知る必要がある。これはいささか退屈な作業 で、「追い越し車線を突っ走る」ようにはいかないし、「ハンドルを握って」臨機即 応に運転するようにもいかない。筆者の実際の経験では、少なくともシステマティッ クなトレーディングとは、ビールとつまみなしで観戦する野球のように退屈なもので ある。しかし、同じことが公道を走る場合とトレーディングルームについてもいえ る。そこはゲームを楽しむところではない。
 トレーディング戦略を統合するということは、デイトレーディング用の特定のマー ケットに特化した高速なシステム(800馬力のエンジンを搭載したNASCARのマシンのよ うな)から、長期トレーディング用の汎用システム(地ならし機のような)ものま で、実際のシステムに売買のルールを組み込むことである。これが完了すれば、次に 資金管理に取りかかる。これは、ギアボックスとトランスミッションに相当する。シ ステムの目的を念頭に置きながら、システムをできるだけ効率的で安全なものに仕上 げなければならない。自動車のたとえを続けるなら、NASCARのレーシングカーのエン ジンにステーションワゴンのトランスミッションを合わせようとすれば、それは悲惨 な結果を招くことになる。
 エンジン(システム)とトランスミッション(資金管理)が、バランスよく機能す ることが確認できたら、次は運転席と車体である。トレーディング戦略では、これは トレードを行うマーケットの選択に相当する。特定のマーケットに特化したシステム の場合は、この過程はすでに終了している(Aの前にCが終了している)。しかし、 戦略が特定のマーケットに特化したものであるかどうかにかかわらず、そのシステム ができるかぎり多くのマーケットで有効に機能するようにしておくことが重要であ る。マルチマーケットのシステムでは、システムをマーケットにカーブフィッティン グさせてはならないのと同様に、マーケットをシステムに対して最適化することで、 戦略をカーブフィッティングしてはならない。
 優れたシステムと収益性の高いシステムとの間には、大きな違いが存在する。この 違いを理解しておくことは、何にもまして重要である。また、優れたシステムは収益 性の高いシステムへと変わる可能性が常にあるが、その逆はあり得ないことも重要で ある。有効に機能するシステムは、パーセンテージベースやほかの汎用性の高い基準 で測定される同じタイプの動きを、あらゆるマーケットでとらえることができるから である。一方で、収益性の高いシステムとは、有効に機能するシステムで、特定の マーケットやマーケットのポートフォリオに対して完璧な戦略を適用したときに利益 を生み出すものである。
 エンジン(システム)とトランスミッション(資金管理)、車体(マーケットの ポートフォリオ)で自動車(戦略全体)を組み立てても、まだ足りないものがある。 それは、燃料とドライバーである。燃料とは資金と時間であり、ドライバーとはあな たのことである。しかし、幼児をシートに乗せて運転席に座る前に、これが本当に自 分に適した車かどうか(本当は自分がランボルギーニを乗り回すタイプであると分か っていても)を確認する必要がある。
 本書の内容は、すべてデイトレーディングのテクニックとして応用できるものであ るが、今日巷にあふれている多くのデイトレーディングの解説書に屋上屋を重ねるよ うなものではない。本書では商品先物のマーケットを例として多用しているが、けっ して特定のタイプのマーケットを志向したものではない。株式やマーケット(市 場)、コントラクト(銘柄)という言葉は同義語として扱われる。
 第1部では、システムのパフォーマンスを、基本的で汎用性の高い指標を使って測 定する方法を詳しく説明する。さらに、マイクロソフト・エクセルやロータス1-2-3の ようなスプレッドシート・プログラムを使って分析を深める方法についても説明す る。このセクションでは、さまざまなタイプのデータとそれをいつどのように使用す べきかについても、詳しく研究する。これは特に先物のトレーダーが理解しておくべ きことであるが、株式専門のトレーダーであっても、今まで構築してきた多くのシス テムが実際に稼働し始めたとたんに機能しなくなる理由について、貴重な洞察にふれ ることになろう。
 第2部では、目的に応じてさまざまなタイプのデータを使い分け、長期と短期の基 本的なトレーディングシステムを統合する。特定のマーケットに特化したシステムも いくつかあるが、それ以外はすべて多くのマーケットで使用できる。スプレッドシー ト・プログラムを使って多くの分析を行い、そのために第1部で開発したコードを使 用する。また第2部では、本書全般で使用する特別な仕掛けのテクニック以外で、最 も重要なことを学ぶ。それは、有効に機能するシステムが必ずしも収益性の高いシス テムであるとは限らず、特定のマーケットではうまくいかないシステムもある、とい うことだ。
 第3部では、第2部で統合したシステムの検証を行い、統計上の特性を向上させる 方法を研究する。そのために、ジョン・スイーニーのMAE(最大逆行幅)、MFE(最大 順行幅)の分析手法や、ドローダウンを切り分けるさまざまな手法を使用する。ま た、尖度や歪度などの指標も導入する。第3部はいろいろな意味で最も重要なセクシ ョンである。あとで固定比率資金管理ルールに追加する手仕舞いのテクニックによっ て、最低でも収益を10倍に模することが可能となる。
 第2部の仕掛けのテクニックと第3部の手仕舞いのテクニックに加えて、第4部で はマーケットの好ましい状況や構成を抜き出すための、さまざまな手法の研究を行 う。ランダムな仕掛けのポイントを使用することで、可能なかぎり多数のトレードを 生成できる。これによって、わずか数年のデータで長期間に相当する独自のトレード を必要なだけ生成することが可能となる(本書を書いたあとで、実際にこのテクニッ クで直近10年間のダウ・ジョーンズ工業株30種平均の株価データから、300万年以上に 相当する独自のトレードを生成した。これで堅実な結果が得られなければ、もうどう することもできない)。このセクションの最後に、より理論的な考察を扱う章を設け た。そこでは、トレンドがどのようにして形成されるかを理解するための枠組みと、 システマチックなトレーディングが最も有効であるとする筆者の信念の背景を説明する。
 第5部では、さまざまな資金管理戦略を使用してすべてのシステムを結合すること で、これまでのすべてを結びつける。また、複数のマーケットとシステムの組み合わ せで構成されるポートフォリオを統合する方法についても詳しく研究する。そこで は、それぞれの組み合わせが互いに相乗効果を生み出す。これは、資金管理ルールを 共有しなつつ、すべてのシステムが連携し合って機能していなければ達成不可能なも のである。新しい造語を使うならば、われわれが行っていることはシステムの「最適 化(optimize)」ではなく、システムを「適量化(optisize)」することである。 「適量化」と最適化の大きな違いは、最適化がシステムをデータに対してカーブフィ ッティングさせるのに対して、「適量化」ではトレーディングの金額をシステムに適 合させるのである。システムの最適化の度合いが低いほど、戦略をより適量化するこ とができる。ほとんどの作業はスプレッドシート・プログラムで行う。公式やコード は数多くあり、そのままコピーして各自の作業で使用できる。本書を完結する前に、 システムの堅牢性を確認する方法を説明し、システムを実際のトレーディングに使用 する前に自信をつけることができるようになっている。
 何人かの人が、このノウハウを自分で利用せずに他人に教えてしまうのはなぜかと 質問してきた。まあ、現在もこのノウハウの大半を改良している最中だと、というの が本当のところで、もし本書がニューヨーク・タイムズのベストセラーリストのトッ プに突然躍り出たとしても、本書のシステムや戦略が広まって優位性を失ってしまう ことはないと考えるからである。その理由は、第一に、本書の読者すべてが内容に賛 同するわけではなく、また他人のアイデアでトレードを行うよりも自分のアイデアで 行いたいと考える者もいるため、全員がこの内容を実行することはない。第二に、そ れを使ったとしても、多くの者が利益を得ることはできないであろう。彼らは常に思 慮不足から失敗を犯すからである。最後に、最大の理由は、マーケットはわれわれが 考えているよりはるかに大きなもので、本書の戦略はしょせん数多く存在する戦略の なかのごく一部でしかあり得ない。そしてその数多くの戦略のおかげで本書の戦略が 有効となる。
 実際のところ、筆者はこれらの戦略が自己強化するくらい広く普及して、戦略の収 益性が高まることを期待しているくらいである。この観点に立てば、読者は筆者の敵 ではなく目的を同じくする味方であり共犯者である。トレーディングというゲームに おける真の敵は、自分自身である。人生でどんな状況に直面しようとも、他人の助け を借りなければ物事を成し遂げることはできない。したがって、基本的には読者にノ ウハウを譲り渡したとしても、自分自身によるリスクに比べれば、それは自分の将来 の富を脅かすものとはなり得ない。
 最後に、有名なマネーマネジャーであるラルフ・ビンスの言葉を読んで、本書をか たわらに置いてしばらく熟考してもらいたい。もし、この内容が理解できないか賛同 できないのであれば、本書を読む必要はない。
 「将来において数学的期待値をプラスに維持するには、使用するシステムの自由度 を制限しないことが重要である。それには、最適化のためのパラメータを除去する か、少なくとも最小限にするだけでなく、システムのルールを最小限にしなければな らない。システムにパラメータを追加したり、ルールを追加したり、調整や制限を加 えたりすると、それらはすべてシステムの自由度を制限する結果となる。理想的なシ ステムとは、基本的かつシンプルなもので、あらゆるマーケットで損益分岐点を超え る限界利益を継続的に上げることのできるものである。また、システム自体の収益性 が高いかどうかは、システムが利益を生み出しているかぎり重要ではない。トレーデ ィングによる収益は、採用している資金管理の効率性に依存する。トレーディングシ ステムは、使用する資金管理に基づいてプラスの数学的期待値を得るための道具であ る。単独の、またはごく少数のマーケットでのみ機能する(限界的な利益を生み出 す)システムや、さまざまなルールやパラメータを使ってあらゆるマーケットに対応 させているシステムは、実際のトレーディングで使用した場合に、長期にわたって機 能することはないであろう……」
 本書を読み進むに当たって、www.ThomasStridsman.com である筆者のウエブサイト にもアクセスしていただきたい。そこでは最新の資料などを注文できる。これによる 収益金は、チルドレン・メディカル・センターに寄付されるもので、ご協力いただけ れば幸いである。また、筆者に対する意見やコメントも歓迎する。

                  トーマス・ストリズマン


 謝辞

 私の人生において公私にわたって私を支えていただいた人々に、ここに感謝の意を 捧げる。すべての人々に感謝を捧げるには、本書の残り全部の紙数を費やしても足り るものではない。身近でお世話になった数人に特別に謝辞を述べることで代えさせて いただきたい。最初に、ネルソン・フリーバーグ氏とその家族、私をフューチャーズ 誌のテクニカル分析エディターとして推薦してくれたダン・グランザ氏とメアリア ン・グランザ氏に感謝したい。
 次に、英語力が不足しているにもかかわらず私をエディターとして迎え入れ、信頼 してくれたジンジャー・スザーラ氏とジェイミー・ホルター氏およびほかのフューチ ャーズ誌のエディター全員にも感謝したい。シカゴへの引っ越しを手伝ってくれた友 人ジム・ハロウフ氏とマギー・ハロウフ氏には特にお世話になった。
 ビクストーム・リュング・アンド・パートナーズのヨナス・ビクストーム氏とヨハ ン・リュング氏には、最新のコンピューターを提供していただいた。マックス・ホ ン・リーチェンステイン氏には、第4部の「トレンドを形成するもの」という重要な 章で、ミクロとマクロ経済学の最先端の知識を授けてもらった。
 メリッサ・ラング氏には、オープンで素直な関係とはどういうものかを教えてもら った。その他、長年にわたって私が学んできたすべての人々に感謝を捧げたい。
 最後に、本書の編集の最終段階に至るまで私を支援していただいたパティ・ウォー レンバーグ氏にも謝意を表したい。


第4章 天井と底をとらえる
Picking Tops and Bottoms

 短期トレーディングを行う場合、あるいは「天井と底をとらえ」ようとする場合、 システムトレーダーの多くはまず、近年テクニカル分析の分野で多用されている多く のオシレーター系の指標を使おうとする。このような指標には、RSI(相対力指数)、 ストキャスティック、モメンタム、ROC、MACD、プラスDMI、マイナスDMIなどがある。 ほかにも数多くのものが存在するが、一般によく使われているのは以上のものであ る。これらは、マーケットの天井と底をとらえるのによい指標であると考えられてい る。これらの指標は、マーケットが買われ過ぎや売られ過ぎの領域の出入りはもちろ ん、マーケットの動きを「確認」しないでも、マーケットの動きを先取りしたり、予 測したりできるとされているからである。しかし筆者は、読者がこれらの指標はヒス トリカルのチャートでは有効であるが、現実のマーケットではほとんど役に立たない ことに気づいているからこそ、本書を手にしたと考える。
 もし、これらの指標がすべて役に立たないのであれば、どのようにして短期トレー ディングに利益機会を見いだせばいいのであろうか。トレーダーにとって、とりわけ ごく短期のトレーディングを行う場合にとって重要なことは、利益につながるデータ を発見することであろう。まず何よりも、トレーディングを行うマーケットについ て、深く洞察しなければならない。そうすれば、マーケットの現在の状況とそれを測 る指標について、より的確な判断を下すのに役立つであろう。しかし、そのために は、何を探し、それをどのように測るのかについて、前もって正確に知っておく必要 がある。
 すべてのマーケットで、同じように有効に機能するシステムを構築するには、使用 するデータのタイプを決定しなければならない。通常のポイントベース修正つなぎ足 では、過去のデータを使って、それぞれのマーケットで上げることのできる利益を推 定することはできる。しかしこの構築方法では、あるマーケットからほかのマーケッ トへと情報をつなげることはできない。すべての動きに等しい加重を置き、計算に必 要な入力値を引き出すには、パーセンテージベースの計算だけを使うことが、絶対に 不可欠である。そして先物のトレーダーであれば、フューチャーズ誌掲載の新しく開 発されたRAD(『Data Pros and Cons』1998/6,『Truth Be Told』1999/1)も使うべき であろう。トレンドのあるマーケットでは、価格変動の金額ベースの大きさは、マー ケットの価格水準によって変わる。上昇トレンドにあるマーケットで、価格が堅調に 上昇している場合、金額ベース、またはポイントベースの変動も同様に増大する。価 格変動とマーケット水準の関係が変わらない場合は、マーケットがどの水準で取引さ れていても、パーセンテージベースの平均変動率も変わらない。これはまた、百分率 分析やパーセンテージベースのストップなど、どのタイプのパーセンテージベースの 判断基準に基づいて作業を開始しても、すぐに必要となるものである。
 ここでキーワードとして、「同じ収益性」の代わりに「同じ有効性」を使う。ヒス トリカルデータを使って仮想トレードを行うシステム構築時と同じように、将来にわ たっても有効に機能し続けるトレーディングシステムを構築するには、有効性の高い システムと、収益性の高いシステムの違いをよく理解しておくことも、また重要であ る。さらに、以上のことを完全に理解したうえで、より重要なことは、収益性の高い システムは必ず有効性の高いシステムでなければならないが、有効性の高いシステム が必ずしも収益性が高いとは限らない理由を理解することである。このカギとなるコ ンセプトは、本書を通じて繰り返し強調していく。
 有効性の高いシステムの収益性が高いかどうかは、そのシステム自体には関係がな い。むしろ、マーケットの現在の水準とその金額ベースの水準に関係がある。例え ば、S&P500の金額ベースの価格が、今日の250ドルからポイントあたり2.50ドル下落し たとする。いったいどのくらいのS&P500のシステムが、将来にわたって、あるいはヒ ストリカルデータによる検証でも、利益を上げることができるのだろうか。おそら く、そう多くはないであろう。重要なのは、現実のマーケットの価格と変動は、シス テムがマーケットの価格変動をうまく捕捉できるかどうかには関係なく、取引所によ って技術的に決められるものであるということだ。
 システム構築の過程では、実際の金額ベースの価格は関係ない。その代わりに、プ ロフィット・ファクター、パーセンテージの動き、勝ちトレード回数などの一般的な 指標を中心に扱うことになる。マーケット間で結果に大きな違いが出ないように、こ れらすべての指標の標準偏差に注目する。このように、有効に機能するシステム、す なわち優れたシステムとは、あらゆる市場環境において、大きな変動を可能なかぎり 数多く捕捉できるシステムのことである。しかし、システムの収益性を高めるために は、捕捉した変動が価値をもつマーケットで、そのシステムが使用されなければなら ない。これはシステムそのものというよりも、現在のマーケットの取引水準とその金 額ベースの水準に影響される。
 データとさまざまな測定方法から探し求めるものが明確になれば、次に自分が行い たいことを正確に把握しておく必要がある。すなわち、基調をなす長期トレンドに従 って同じ方向のトレードを行うのか、目先の動きをとらえるのかである。どちらのト レードを行うにしろ、あらかじめ指値注文を入れる転換点を予測しておくのか、あり いは多少安全策を取りつつ、先行した動きがそのままの動きをたどりそうな裏づけを 見つけだし、それからストップロスを入れるのか、自分で決めなければならない。も っといえば、いったんポジションを取った後は、できるだけ長くそれを維持するの か、特定の価格にストップを置くのか、大きなマーケット変動の後でごく短期の売買 を行って素早く勝ち逃げするのかを決めなければならない。
 この章では、利益の高いトレードを数多く生み出して優秀な成果をあげてくれそう な、いくつかのシステム案について詳細に考察していく。最初の2つは、マーケット に特化したデータマイニング・システムで、調査技術としてもシステムとしても、ど んなマーケットであろうと完全に応用できるものであるが、ある特定のマーケットや 関連するマーケットのグループの特性にのみ着目する。次のシステムは、独自に開発 された指標で、ボリンジャーバンドとピボットポイントというパーセンテージベース の分析を統合したものとしては、おそらく最も優れたものであろう。最後のシステム は、統計上の小さな優位性を利用するもので、トレードから抜けるルールを見つけだ す方法を実証するだけものである。これは、すべてのマーケットで同じように機能 し、小さなトレードや、時にはほとんど利益が出そうにないトレードからも、長期的 に利益を生み出そうとするもので、私はブラックジャックと名付けた。これは、特に ラルフ・ビンスの最適のfや固定比率投資(第3部で、われわれのシステムすべてに応 用できる、さまざまな手仕舞いについて説明する)のような、より高度な資金管理戦 略と併用することで、有効に機能するように設計されている。


第5部の最後に
A Few Final Thoughts About Part 5

 観察の鋭い読者であれば、筆者が第4部までは一貫して「戦略」ではなく「システ ム」という用語を使っていたのに、第5部では頻繁に「戦略」という言葉を使ってい ることに気づいていると思う。その理由は、「システム」は筆者にとって基本的なト レードの仕掛けと手仕舞いのテクニックにすぎないが、「戦略」は、システムや資金 管理のルール、特定のマーケットでのトレードに対する綿密な推論を含む完璧なト レーディング・プランを意味する。筆者にとって適切な資金管理ルールのないシステ ムは戦略と呼ぶに値しない。
 筆者は最近、オメガリサーチ社が「システム」の代わりに「戦略」を使い始めたこ とに気がついた。これは、目新しい流行語を取り入れたり、製品の魅力を損うような 言葉を避けようとしたりするソフトウエア会社の無意味な試みにすぎない。
TradeStation(トレードステーション)は、そのままでは完璧な戦略の構築には利用 できない。ポートフォリオ全体の検証はいうまでもなく、単独のマーケットで適切な システム検証さえ実行できないのである。
 第5部では、固定比率資金管理のルールを統合する方法を詳しく説明し、一貫して パーセンテージベースによる計算を使用した。前の章でのつらい作業をすべて適切に 完遂しなければ、これを実行することはできない。いうまでもなく、全体が部分の総 和を超えるようなシステムでは資金管理やポートフォリオの構成など、すべての要素 がほかのすべてに影響を与える。このようなシステムを構築するには、何を達成した いのかを正確に理解しておくことが大切で、ごまかしは一切通用しない。
 筆者はビンスの信奉者であるが、そうであるからこそ、このセクションを通じてビ ンスにあえて2つの問いかけを行いたい。ひとつは、「共通の智恵」となり得るもの について、もうひとつは特定の問題や議論へのさまざまなアプローチについてであ る。本書の筆をおく前に、これらについて詳しく述べていきたい。
 筆者がビンスの考えを正しく理解しているならば、パーセンテージベースとポイン トベースのデータに関しては、どちらを使うかは問題とはならないはずである。ビン スは、ポイントベースのデータをトレンドが強く出るマーケットで使用する場合の問 題については認識しているが、使用するデータでトレンドが問題となるような場合、 それは、おそらくデータ量が多すぎるからであると述べている(『マセマティック ス・オブ・マネーマネジメント(The Mathematics of Money Management)』)。
 しかし、これ以上の誤りはない。確固とした結果を得るには、可能なかぎり多くの データを扱う必要がある。これに以外の方法はない。システムを将来においても機能 させるには、直近のトレンドがどのようなものであれ、そのときの大統領がだれであ れ、トレーディングされている水準に依存しないマーケットの不規則な動きを発見す る必要があるからである。その動きとは、いかなる現象にも依存せず、特定の時間に のみ帰することができるものでなければならない。さらに、さまざまなマーケット間 で比較を行うことができるのは、パーセンテージベースの計算を使った場合だけであ る。ビンスは、システムを堅牢なものにするには、複数のマーケットを扱う必要があ るとしているが、その場合の問題点については触れていない(たとえそれが、ビンス の著書の目的ではないにしてもである)。
 このセクションのもうひとつのポイントは、過去の最大の負けトレードを最適のf の算出に利用できないことである。最適のfは、使用するモデルに適用した条件に基づ く最大TWR値を導くf値である。残念なことに、アナリストとシステム設計者のほとん どは、最適のfを過去の最大の負けトレードに対応するf値と認識している。この認 識が一般に広く流布されており、固定比率による投資に関する理論全体の理解を危険 なものとして遠ざけてしまっている。過去の最大の負けトレードを最適のfの算出に 使うことは、最適のfを特定の条件に関連づける唯一の方法である。ただし、過去の 最大の負けトレードの2倍にあたるような失敗を犯したくないのもまた事実である。 この最適のfは、一般に認識されている最適のfよりもはるかに大きな値となるから である。
 この特殊なケースでは、ビンスの意図が皆を盲目にすることにあるとは思わない が、実際にはそれに等しい。何らかの情報を読み取り、その数値を熟考することなく そのまま受け入れてしまっている。実際、最大の負けトレードに基づく最適のfでト レードを行うことはかなり危険である。しかし、今まで見てきたように、よく分散さ れたポートフォリオでは、証拠金の制約や大き過ぎるドローダウン、トレード不可能 な枚数などのいくつかの現実的な理由で、高いf値でトレードを行うことには無理が ある。
 本書では、過去の最大の負けトレードからf値を算出する代わりに、各トレードの ストップロスとマーケットの状況にかかわらずストップロスのレベルを一定に保つこ とを提案してきた。選択した制約条件に基づいて最適のfを算出したら、実際にはそ れよりも低い値を使用するようにしなければならない。将来においては、特に特定の マーケットを志向したポイントベースで構築したシステムでは、未知のf値が実際に ははるかに低いものだったということがないとはいえないからである。
 多くのポートフォリオマネジャー、特に株式市場を扱うマネジャーは、固定比率資 金管理のルールを、CAPM(資本資産評価モデル)やEMH(効率的市場仮説)と統合しよ うと試みたことがあるはずである。しかし、筆者の理解しているかぎりでは、両者を 統合することは不可能である。その理由は、いくつもの異なるマーケットで均一に機 能するシステムでは、そのすべてのマーケットで統計上の特性に差異がないという前 提が必要だからである。これは現実には多少そぐわないかもしれないが、システムの 目的のためには必要な前提である。そしてこの前提があるがために、構築したシステ ムで資金管理を適用するときには、そこから逸脱することはできないのである。そう でないと、最適なソリューションを外してしまうことになる。すべてのマーケットで 統計上の特性が同じであるということにしないと、すべてのマーケットで均一に機能 するシステムを構築することはできない。そうしなければ、すべてのシステムはやむ を得ずカーブフィッティングによって特定のマーケットに特化し、堅牢性に欠け、ど のような資金管理ルールを適用してもトレードを行うには危険なものとなってしまう。
 一部では、ポートフォリオ全体がドローダウンのなかにあるかどうかによって、異 なるf値を使用すべきであるという議論もある。この場合、マーケットが上昇トレン ドであるか下降トレンドであるか、買いポジションを取っているか売りポジションを 取っているかは問わない。しかしこの方法では、基本となるシステムに欠陥があると いう前提に立って、資金管理の手法を駆使して個別のトレードの利益を何とかして増 やすしかない。しかし、たとえ正しく構築されたシステムであっても、個々のトレー ドの結果を知ることも予測することもできないのであって、それは現実的ではない。 トレンドの方向が上昇であろうと下降であろうと、あるいはその両方が起こっている ようなマーケットにおいてさえも、有効に機能するシステムでは、天井と底をとらえ ることと上方や下方へのブレイクアウトで仕掛けることの間には何も違いはない。ま た、特定の戦略に限定すれば、このような反論も可能である。上昇トレンド(下降ト レンド)のなかで、ストップロスのレベルを変更するか投資金額を変更するかして、 より大きな買い持ち(売り持ち)のリスクを取る可能性である。つまり、これは特定 のマーケットやトレンドに特有の性質やアノマリーの存在を否定するものではない (本書では、実際にいくつかの[短期の]アノマリーに遭遇した)。見つけだしたい タイプのアノマリーがマーケットに存在するのであれば、一度にひとつのアノマリー を正確にとらえるシステムを構築しなければならない。しかし、そのようなシステム にはもはや汎用性はなく、本書で取りあげたシステムに比べて信頼性や堅牢性に劣る ものとなってしまうであろう。
 最後に、より理論を重視する傾向にあるシステム開発者やアナリストは、過去のト レードの結果を詳しく調べるよりも、まず結果の分布状態を計算し、f値をパラメト リックに算出することを主張する。一見これは最もらしい理屈に思える。数学的表現 を用いて将来のトレード結果の分布状態を予測することで、現実のヒストリカル・ト レードを使うよりもより精度の高いモデルであると思わせるものがある。短期システ ムにストップと手仕舞いテクニックを統合するときに、われわれはトレード結果の分 布状態を観察するが、この特殊なケースでは、分布を使ってf値を求めることはほと んどしない。実際のところ、それを行った場合は出来の悪いシステムがたくさん手元 に残される結果となるであろう。その理由は、トレードの分布が何らかの分布状態、 特に正規分布に似てくると、トレードの結果はおそらく散々なものになるからであ る。本質的にそれぞれのトレードは仕掛けた直後からそのトレード本来の目的地に向 かって動くものであり、ストップや手仕舞いテクニックを使わなければ効率的な結果 を得ることはできない。
 それよりも、各トレードについてごく少数の明確で特徴的な結果が得られるように することが大切で、ストップロスを使って最適のfを計算すべきである。ストップと 手仕舞いテクニックによって、特定のマーケットのアノマリーに依存しないシステム を開発することができるのであって、これらのテクニックなしでは、そもそも固定比 率資金管理のルールにシステムを委ねることなどできない。とはいうものの、正規分 布に基づくシステムで、本書のシステムよりもはるかに優れた結果を残すものが多数 あるのも事実である。ここまでわれわれが開発してきたシステムや戦略は、所詮「張 り子の虎」なのである。


 バック・トゥ・ザ・フューチャー

 金融市場はランダムな動きをするものではなく、メカニカルなトレーディング戦略 でこのアノマリーの動きを利用する方法がある。幸いなことに、ロケット・サイエン ティストである必要もない。ただ、今まで持っていた知識に少しばかり足りないもの を補うだけのことである。残念なことに、特定の事項について何の知識も持たない場 合よりも、持っている知識が不足いる場合のほうが悲惨な結果につながることが多 い。この業界の大物はこのことを分かっているからこそ、あえて人に教えようとはし ない。彼らにとっての金鉱脈ともいえる知識が、あなたを破産させるかもしれないか らである。
 このことを踏まえると、ストップを置くことについてわれわれが議論し尽くしたと いうこととは一致しない。基本的なトレーディングや投資に関して、ポジションを手 仕舞うことについてはだれも真剣に取り上げていないからである。アナリストやブ ローカーの推奨をくまなく調べると、「強力な買い推奨」「買い推奨」「割安」「ア ウトパフォーム」「平均以上」「長期的に買い」「強気の見通し」のような多くの意 見が得られるが、「売り推奨」「ここまで下がれば売り」「ここに到達すれば売り」 のような意見にはほとんどお目にかかれない。最もありふれたフレーズは、「中位の パフォーマンス」か「買い持続」であろう。その理由は、この業界では売りは悪であ って、ブローカーは顧客に悪い話を聞かせたくないし、させたくもないからである。 専門的な見地からみて正しいことであろうと間違ったことであろうと、悪いムードを 伝えてしまうことはビジネス上得策ではない。
 しかし、筆者にしても読者にしても、何かに投資して(あるいは先物で)大金を吹 き飛ばしてしまうわけにはいかない。利益が出ていようと損失となっていようと、自 分の研究に基づいて資金効率が高くなるようなポイントでポジションを閉じなければ ならない。ポジションを取るということは一度きりの決断であり、一度決断を下せば その状態でその先を何とかしなければならない。しかし、ポジションを閉じる決断は 現在進行形のプロセスであり、「資金をほかの投資対象に振り向ければもっと効率的 ではないか」と常に自問し続けることになる。この「ほかの投資対象」が銀行口座で あるか、ほかのトレーディングや投資であるか、自分の枕の下であるかは問題ではな い。そのため、いかなるトレーディングや投資テクニックも、徹底的に研究されたス トップや手仕舞いテクニックなしでは完璧なものとはならない。ストップと手仕舞い ポイントは、トレーディングプロセスの中心であるばかりでなく、収益性の高い資金 管理ルールの基盤となるものである。
 残念ながら、どのようなストップと手仕舞いポイントをどこに置くかを研究するに は、過去の最大ドローダウンを金額ベースで知っているだけでは不十分で、使用する システム全体についてついてはるかに多くのことを知っておく必要がある。金額ベー スのドローダウンは、将来起こることについて何の手掛かりともならないし、それを もとに何かを行うにしてもまったく無意味だからである。ドローダウンについては、 STD(スタートトレード・ドローダウン)、ETD(エンドトレード・ドローダウン)、 CTD(クローズドトレード・ドローダウン)、TED(トータルエクィティ・ドローダウ ン)のように、いくつかのカテゴリーに分類することを知っておかなければならな い。それが十分でない場合は、各トレードのMAE(最大逆行幅)とMFE(最大順行幅) の計算方法を知っておく必要がある。
 第3部で、これらの手法をすべて説明した。サンプルとして使用した各システムで は、一連のストップと手仕舞いテクニックを統合して、それぞれのパフォーマンスを 向上させた。さらにわれわれの短期システムでは、これらのテクニックは一般的なも ので、汎マーケット的なものとしてはベストの対策である。これらを主に乱数機能を 使って開発し、そのあとで検証過程で使用されたもの以外のマーケットに適用した。 そうすることで、このシステムは実質的に非カーブフィッティング的で、すべての マーケットで繰り返し検出される汎マーケット的な矛盾を見つけだすことができるも のとなった。
 このことから、2つの興味深い結論が導き出された
 ●基調となるトレンドに従ってトレンドフォローのトレードだけを行った場合は、 ほとんどのマーケットで通用する長期的な優位性を獲得できる。
 ●長期トレンドの見通しを立てられない場合は、わずかなヒストリカルデータを使 って結論を出し、短期(3~9日程度)の短期トレードでしのぐことができる。

 マーケット間の統計上の特性は、トレンドの方向や状態に関係なくかなり似通った ものである。例えば、直近の5日間のマーケットの動きをみると、小さいながらも測 定不可能な変化が起こっており、これが長期のトレンドを形成することになるかもし れない。そのレベルでは、統計の特性上測定可能な差異が生まれ、上方または下方へ のトレンドがそれぞれ明確になってくる。短期トレードを行うことによるもうひとつ の大きな利点は、長期トレンドの方向性だけでなく、あえて指値注文を使って天井や 底をとらえることも可能となることである。これは、長期トレンドを把握しているこ とで安全性が確保されているから可能となるのである。
 短期的あるいは長期的なマーケットの方向性を見極める方法と、それが最初に起こ る理論的背景のすべてを、第4部全体を通して説明した。フィルターを追加する場合 は、当初の考え方を多少修正する必要があるかもしれない。あるいは、フィルターを 望ましい効率性に適合させることができない場合は、当初の考え方を捨てる必要が出 てくるかもしれない。第1部と第4部の構成のすべてを完全に適合させるまでは、資 金管理を追加し、システムを戦略のレベルまで引き上げて、さらに全体がその部分の 総和を超えるようなシステムを作り上げることはできない。それには、一連のルール と枠組みに加え、トレーディングプロセスについての理解とルールベースのトレーデ ィング戦略を、時間的位置的に孤立した個別の決定としてではなく、意思決定の流れ のなかに介在させる必要がある。これを理解し認識していないと、このようなトレー ディングのメリットを引き出すことはできないし、使用するシステムの個々のシグナ ルを基盤となるデータに最適化することができない。そればかりか、自分のトレーデ ィング・ポジションを戦略全体と個人的な制約や好みに「最適化」することもできな いのである。


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